行きと帰りは、景色が違う
吉田勝次さんとの出会いは強烈だった。コルクで一緒に仕事をしているアナログゲームクリエイターのしんどうさんの紹介だった。しんどうさんは、吉田さんが、世界一義理堅い人だという。僕はなぜかと吉田さんに質問した。
「明日死ぬ覚悟ができているんで」
いつ死んでもいい覚悟をしていると、口でいう人は多い。しかし、吉田さんの探検の話を聞くと、本当にいつも死との隣り合わせだ。吉田さんの言葉が、軽い言葉ではなく、本心なのだということが、ちょっと話すだけで伝わってくる。今ここでの出会いが最期かもしれない。だから、相手を大切にする。世界一、義理堅いという言葉が、おおげさじゃないと2時間ほど一緒に過ごすだけで感じられた。口だけじゃなく、本気で死ぬ覚悟のできている人の凄みが、吉田さんには備わっていた。すっかり吉田さんに魅了された僕は、その場で、吉田さんの洞窟探検に申し込んだ。
吉田さんと名古屋で待ち合わせて、一緒に岐阜の洞窟へ移動した。洞窟のそばにある吉田さんが自分で建てた山小屋で一晩を過ごし、翌朝、洞窟へ入る。車の中や、山小屋でのバーベキューで、吉田さんから洞窟の魅力を何度も聞く。「人生観が変わるよ」とまで言われる。話を聞きながら、だんだん僕は不安になった。あまりにも前もって「楽しい」といわれると、頭の中の想像が現実を超えてしまって、実際に経験した時にそこまで楽しむことができないことが多いからだ。終わった後に、どんな顔をして吉田さんと話せばいいのか。
いざ、洞窟に入ってみると、そんな心配は無用だった。本当に人生観が変わるような体験だった。コルクのリーダー陣のチームビルディングをしようと思って、今回の旅を企画していた。こんな困難に一緒に立ち向かうことなんてなかなかできない。
洞窟の中は、予想していた何倍も狭かった。そして、寒かった。外は真夏なのに、洞窟の中は冬の気温だ。ある箇所などは、頭を縦にしているだけで岩にぶつかって、通り抜けれない。顔を横にして、匍匐前進で進むのだ。そして、洞窟の中は、完全な迷路になっている。万が一、一人になってしまったら、絶対にそこからでることはできない。吉田さんと仲間がいるから不安にはならないけど、もしも、ここで一人になりライトが壊れたら、と想像すると、待っているのは発狂しそうになるほどの恐怖だ。ここが、どこよりも恐ろしい場所、だからこそ、吉田さんを魅了する場所だということが伝わってくる。
洞窟に入る前は、こんな感じでの移動を想像していた。
でも、実際の移動は、ほとんどこんな感じで、えっ、この隙間って、人がはいれるの?というようなところをどんどん進んでいく。吉田さんがいなければ、そちらの方向へ移動しようとなんて、絶対に思いつきもしないような穴へと進んでいく。
その先に待っているのは、圧倒的な透明度の地底湖だった。石を投げて、波紋を起こさなければ、そこに水があるのが分からないほどだ。
この場所で、全員のライトを消した。そこにあるのは、無音と完全な暗闇。数分経つと、体の感覚が変になってきて、自分の手を握ることで、体を確認する。まるで、自分の精神だけになってしまった感覚になる。
洞窟は、山と違って、GPSが入らない。吉田さんが一人で行くような洞窟は遭難したら、もはや絶対に誰も助けに来れない。技術が発達した現代で、社会と完全に切り離されて、絶望的な孤独になる場所は、洞窟の中しかない。山のと違って、標高のようなわかりやすい目安がないから、どの洞窟のほうが難しいということを世間に伝えることができない。さらに、山頂のような気持ちのよい場所もないから、写真も撮れない。もっとも過酷な洞窟が、ただ過酷なだけで、写真を撮れるような特徴的な場所が一つもないことだってありえる。
だから、洞窟探検には、スポンサーがつかない。吉田さんは、淡々と自分でお金を貯めて、それで新しい洞窟に挑戦する。吉田さんは、好きを突き詰めて、熱狂していた。すべての会話、行動が熱狂している人にしかできないもので、それがかっこよかった。
洞窟の中で、吉田さんから聞いた、生還するためのコツがまるで人生訓のようだった。
「行きと帰りでは、同じ道でも見える景色が全く違う。だから、行く時にも、定期的に振り返って、帰りの景色を記憶しておく。そうすれば、行きて返って出れる」
僕は、日々、前を、遠くを見ている。定期的に、振り返りながら、前へ進もうとしみじみと思わされた。
吉田さんに、次に遠征行く時は、クラウドファンディングをするようにすすめた。募集を開始したら、ぜひ、みんなで応援して、吉田さんの探検土産話を一緒に聞こう!
吉田さんの会社による洞窟探検ツアーはこちらから!大変だけど、お勧めです。
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今週の投げ銭のための記事は、僕が大好きな離島ベスト3。僕はすごくインドアだと思われるのだけど、大学時代に海洋調査探検部というダイビングサークルにいて、様々なところに野宿ででかけていたのです。
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