ランド_3

大人版『進撃の巨人』は、山下和美の『ランド』だ!

胸に去来する漠然とした不安。

未来はどうなってしまうのだろう? そして、自分はそれに対応できるのだろうか? 健康だったらいい。でも、もしも病気になっていたら……。

そんなことを考えだすと、不安から逃れられなくなる。

現代は、多くの人が不安に捉えられている時代だと思う。

今、自分が生まれた時と、死ぬ時に社会が同じ様子だと思う人はいないだろう。しかし、産業革命前はそれが当たり前だった。社会の変化の速度は、人の人生よりもずっとゆっくりだった。

あまりにも早い変化は、たとえ好ましい変化だったとしても多くの人を不安に陥れる。

その不安を、少年マンガとして捉えたのが『進撃の巨人』であり、若者の気持ちを代弁してくれているから、大ヒットしたのだと僕は考えている。

言語化が難しい感情を、うまく言語化しているのは、ヒットする大きな要因の一つだ。

『なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?』というビジネス本では、『進撃の巨人』をこんな風に説明している。

人類が巨人から身を守るために、壁が三重になっているのです。いちばん内側で安全なウォール・シーナには、王政府や裕福な人間が住んでいて、主人公たち若者はいちばん外側でいちばん危険なウォール・マリアの内側に住んでいる。この設定が、現在の格差や既得権益に不満を覚える若者の潜在意識をとらえているのではないでしょうか。

(『なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?』松村嘉浩)

『進撃の巨人』では壁に囲まれていたが、『ランド』では山で囲まれている。そして、言い伝えを守り、人々はその山の向こうへは行こうとしない。閉じ込められた、中世のように変化の少ない社会に主人公が住んでいるという共通点はある。しかし、大きな差もある。『進撃の巨人』は、巨人という、戦うべき相手がいた。『ランド』は、戦う相手がよくわからないし、出てくる登場人物達の誰が善で、誰が悪かが分からない。

少年マンガは、分かりやすさをもっていなければいけない。

だから、常に戦う敵が存在する。『進撃の巨人』が対象としていた不安は、閉塞感だ。そして、閉塞感は、打破することができる。

一方、山下和美が描く世界は分かりにくい。『ランド』が、対象としている不安は、実存への不安ではないか。

「生の実感」をなかなか感じることができない中、自分は生きているのか、死んでいるのかも分からない。生きていることに、価値があるのかも分からない。そんな不安を描こうとしているのではないか?

そして、そんな不安は、打破の仕方が見つからない。だから、物語もどのように進むかは、予測できない形になっているのではないか。

1ページ目、誰の言葉か分からない形で、こんな風に始まる。

果たして この世が本当に
存るのか ということさえも
証明されてはいない

私がいて あなたがいる
それしか実感として
感じられない

まあその実感すらも
本物かどうかは分からないのだが

僕自身も不安を覚えることがある。でも、僕が感じるのは、閉塞感ではない。閉塞感は、自分たちの力で打破できていると考えている。だから、ベンチャーをやっているのだと思う。

「生への実感」が弱まっていくことの不安。そちらのほうが、僕の感じる不安に近い。そして、そのような不安を『ランド』は、描いている。読み終えた後、すっきりするのではなく、より胸騒ぎが大きくなっている。向き合うのはしんどいことでもあるけど、不安を沈める最良の方法は、その不安の形を知ることだ。『ランド』が、現代人の抱える漠然とした不安を、この後さらにどのように描いていくのか楽しみだ。

ネタバレになるので言及していないが、最終ページは、この後の物語をどう展開させていくのか、気になるところだ。

ストーリーだけでなく、イラストからも不安を煽られる。

主人公が初めて顔を見せるときの顔の異様さも、普通のマンガでは、あまり考えられない。

「週刊モーニング」公式サイトで、『ランド』第1話が試し読みできるので、読んでみてほしい。

僕が以前書いたレビューで紹介した、『アイ』が好きだった人にはおすすめです。

ランド 1 (モーニングKC) (モーニング KC)

I【アイ】 第1集 (IKKI COMIX)

進撃の巨人 コミック 1-16巻セット (講談社コミックス)

なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?--数千年に一度の経済と歴史の話


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コルク代表・佐渡島のnoteアカウントです。noteマガジン『コルク佐渡島の好きのおすそ分け』、noteサークル『コルク佐渡島の文学を語ろう』をやってます。編集者・経営者として感じる日々の気づきや、文学作品の味わい方などを記事にしています。
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