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海賊との戦い方

北風と太陽の話を、僕はよく思い出す。

                        『きたかぜとたいよう―イソップ童話』(西村書店)

イソップ童話の「北風と太陽」のことだ。コートを着ている旅人をみて、北風と太陽は賭けをする。どっちが早くコートを脱がすことができるのか、競い合うのだ。北風は、自信満々に風を吹かし、コートを飛ばそうとする。しかし、北風が頑張れば頑張るほど、旅人はコートにしっかりとくるまり、コートを脱がすことができない。一方、太陽の番となり、太陽は地上を照らす。段々と熱くなってきて、旅人は自分で服を脱ぐ。
(このコラムの本筋とは関係ないが、僕が編集した伊坂幸太郎の『モダンタイムス』の中には、この北風と太陽をモチーフにした面白いエピソード「太陽と北風と比呂くん」が出てくるので、ぜひ読んでほしい。ちなみに比呂くんは太陽よりも強い。)

                           『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)

僕は様々なビジネスを北風と太陽に分けて、考えるようにしている。

北風戦法は努力している実感が湧きやすいので、仕事をしている満足感は得られやすいし、それなりの効果も出るのだが、長期的にみると必ず太陽に負ける。

日本のコンテンツ業界が、海外にいかない理由は、「海賊版で市場が荒れているから」だった。そして、海賊版対策として、コンテンツ業界がとった施策は、どれも北風的施策のように僕は思う。北風が、旅人の服を脱がせることができなかったように、海賊版対策もやればあちらも対抗策を練ってくるので、いつまでも切りがないし、お金がかかる。そして、「国がなんとかするべきだ」という議論に陥ってしまう。

日本のコンテンツは、質が高いから積極的に海外に輸出すれば、必ずヒットする、そんな考えがCool Japanという戦略の裏にあるように思う。しかし、コルクを創業して海外を回り、日本コンテンツでビジネスをしている人々と話をすると、そんな思いは現実から目を背けた甘い考えだと気づかされる。東南アジアでは、韓国のコンテンツが圧倒的なパワーを持ち出していて、日本のコンテンツは、タダでの使用をお願いしても断られる状況にまでなってしまっている。「まだ本気をだしてないだけ」と考えて、自己評価を高く保ちつづけていたら、本気を出す場すら失おうとしているのだ。悲しいことに、海賊版で見ている人の数すらも、実はさほど多くない。僕は色々な数字を聞くたびに、せめて無料の海賊版ぐらいはもっと多くの人に見られていないと、そもそも市場が小さくてビジネスを始めるのが大変と感じてしまう。

日本のコンテンツは、海賊版対策がされたら、海外に出ようなど悠長なことをもはや言ってられない。とにかく海外にでて、あがかなくてはいけない。

車、電化製品、食品など、様々なメーカーが海外進出をしているが、値付けは基本、現地に合わせて、進出している。時間をかけて、市場を開拓していけばいいと考えているからだ。しかし、コンテンツの値付けは、日本側の事情で決定され、現地の事情が鑑みられることはない。日本の事情を押し付けるのは、まさに北風的態度だ。現地の事情に合わせて、海外に展開してこそ、太陽的戦略で、長期的視野で勝利する唯一の方法だと思う。

                                                土豆網

2年前の2011年、中国のアニメ業界で面白いことが起きた。土豆網という海賊版のアニメの配信で人気を博している会社が、正規版の許可を求めにいった。その結果、テレビ東京が、大英断をして『NARUTO-ナルト-』の許可を出したのだ。海賊版を運営していた会社に!? その結果、何が起きたかというと、土豆網が、他の『NARUTO-ナルト-』を違法配信しているサイトを訴えて排除してくれたのだ。アニメは、この戦法が中国でうまくいきだしているのだが、まだそれを真似ている出版社はいない。

世間は、海賊版が好きで、海賊版の作品を見るのではない。海賊版の方が、便利だから見るのだ。コンテンツを輸出しようと思っているなら、海賊版を批判するのではなく、海賊版よりも便利にしてしまえばいい。自分たちで便利なものをつくるのが難しければ、海賊版を作っている人たちに教えを乞いてもいいのだ。

とにかく便利に。

それが重要だと考えて、「宇宙兄弟」の海外展開について講談社と一緒に考え、アイデアを出し合ってきた。そのなかでコルクは、彼らが提案してきた「クランチロール*で最新話が英語圏でも日本と時差なく読める」に共に取り組んでいくことにした。 (*日本のアニメやマンガを、視聴・閲覧できるWEBサービス)

              クランチロール

これは、日本のエンターテイメント業界にとっては小さな一歩だけど、創業一年目のコルクにとっては大きな一歩だ。

日本のコンテンツの快進撃はここから始まったと言われるようにしたい。

「宇宙兄弟」をクランチロールで日本語版と英語版を同時リリース

これが、僕なりの海賊との戦い方だ。

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http://honz.jp/manga

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