正解主義の呪縛を解く、本来の「学問」とは?
忘れられない言葉がある。
大学一年生の時のゼミの教授の言葉だ。
「君たちは、世の中で最も保守的な人間だ。
教科書には既に正解が確定している知識しか載っていない。本来の学問は、正解がわからないものを追求するものだ。君たちは、正解がわからないものへの学び方を何ひとつ知らない。そして、わからないことに挑戦しない人間が、革新的なことを起こすことはない。
大学は、わかったことを教える場ではなく、わからないことを一緒に学ぶ場である。」
このメッセージは今でも僕に大きな影響を与えている。
わかっていることを究めるのではなく、まだ正解がわからないものを探究する。だから、起業したのだと思う。
ただ、そうは言っても、受験勉強を通じて身についてしまう「正解主義」から抜け出すことは難しい。世の中の大半のことには正解などないのに、正解を思い求めてしまう。
起業家もクリエイターも、正解がないことに挑戦している。しかし、最終的には売り上げをあげないといけない。俯瞰すると、結局は売り上げという正解に縛られた中で比較的自由に発想しているだけと言えるかもしれない。
世知辛い世の中なので、大学教授も、やっている研究が何の役に立つのか? 研究費を払ってもらうに値するのか?と世間から問われることがあるけれども、本当にぶっ飛んだことをし続けている研究者は存在する。
『ドラゴン桜2』で『スタディサプリ』を勉強法としてオススメしたことが縁で、スタディサプリのプロダクトオーナーのリクルートの山口文洋さんと懇意になった。
山口さんは、受験勉強のためのサービスをやっているが、学生たちに大学名、偏差値で大学を選んで欲しくないと言う。高校生の時期に、尊敬する研究者を見つけ、その人の素で学ぶために大学を選んでほしい。
そのために、スタディサプリでは、面白い研究をしている大学教授100人強にインタビューをし、わかりやすく冊子にまとめ、無償で高校に配布していた。「採算度外視でやっているのだけど、いい企画でしょ」と山口さんが自慢をする。
その冊子を読んで、僕は驚いた。こんな変な研究があるのかという驚くものばかりだった。サバからマグロが産めないか研究しているというのだけど、なんでそんなことをやってみようと思うのか想像もつかない。
この取り組みは、「ドラゴン桜」の連載が終わった後に、僕が担当した『16歳の教科書』と同じだと感じた。
2007年に発売した『16歳の教科書』は、最終的には50万部を超えるベストセラーになった。企画のキッカケは『ドラゴン桜』で、様々な先生に勉強法の取材をしたけど、連載が終わるから詳細を作品内で伝えられない。取材中、先生たちは国語や数学など自分の担当教科がいかに面白いかを熱弁してくれる。学問は本来、面白いものだ。でも、受験生たちは勉強はつまらないものだと思って、入試のために我慢する。このギャップを埋めたいと思ったのだ。
この本では、それぞれの先生に、専門教科がどれだけ好きかを話してもらった。受験勉強を嫌々やるのではなくて、その学問の面白さを知ってから、受験勉強をしてみよう。そんなメッセージを『16歳の教科書』には込めた。
スタディサプリの取り組みはもっと世の中に広まった方がいい。
大学に何のために行くのか。これが、明確になっているかどうかで、受験勉強にのぞむ態度は全く変わる。
そこで僕から、「冊子に書いていある内容をもっと読み応えのあるボリュームにして、もっと多くの高校生に読んでもらえるようにしましょう」と提案し、勝手に出版社を回りはじめた。最終的に、児童書を多く出版しているポプラ社が企画に賛同してくれて、本の発売が決まった。
そうして発売したのが、『スタディサプリ三賢人の学問探究ノート』だ。
この三賢人の学問探究ノートでは、テーマごとに3人ずつ、面白い研究をしている教授のインタビューが掲載されている。どの教授も本当に変わっていル。こんなことが研究テーマになるのかとまずは驚くだろう。そして、研究者たちは誰もが、自分の心に素直だ。
研究者は誰も「正解」と言ってくれないことをひたすら研究している。やっていることが、利益や世間からの評価を生むかはわからない。学者は、正解がない道を歩み続けることに、とてつもない覚悟を決めていたりはしない。ただ、楽しんでいるだけだ。自分の楽しい、面白い、ワクワクをトコトン追求している。
自分の心を殺して、正解を探しに行くのではなく、自分のワクワクを大切にする。
それでいいのだと思える本に、『スタディサプリ三賢人の学問探究ノート』は、仕上がっているので、高校生だけでなく、正解主義に囚われている大人にも、是非読んでもらいたい。
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