自分の「好き」が、見つからない時に立てる問い
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自分の「好き」が、見つからない時に立てる問い

「正解を探そうとするのはやめよう」

ぼくが新人マンガ家によく伝える言葉のひとつだ。

新人は、僕の正解を探したり、社会の正解を探したり、誰かの顔色を伺うように作品を描いてしまいやすい。そういった作品は、他者を楽しませようと努力したのに面白くならず、どこかで見たような、ありふれたものになってしまう。

必要なのは、自分の「実感」を信じることだ。他者の正解ではなく、実際に感じた感情を正確に探り当てようと試みることが創作だと思う。

自分が感じた「おもしろい」「つまらない」「素敵」「なぜだろう?」「おかしくない?」「気になる」といった様々な感情に蓋をしないこと。そういった描き手の感情が読み取れる作品には「作者らしさ」が宿り、そこに読者は惹かれていく。

感情の中でも、「好き」を大切にするのがいいと僕は思っている。

自分の「怒り」や「悲しみ」といった感情を起点とした作品を描くこともあるだろう。だが、そういう強い感情から創作していると、描き続けるうちに精神が擦り減っていってしまう。一方、「好き」を起点とした作品を描くと、モチベーションが自然と継続していく。

それで、ぼくは新人マンガ家には、マンガを長く描き続けるために、「好きのおすそ分け」としてマンガを描こうと伝えている。

先日、コルクスタジオに所属するマンガ家たちと合宿をして、「好きのおすそ分け」とはなんなのかを、深く議論した。そして、いい気づきがあった。

その時に出てきたキーワードは、「受け継ぐ」という概念だ。

そもそも僕らは何かをどうやって「好き」になったのか? 自分より先に深く感動した誰かがいて、その人たちが好きを深堀りして、それを僕らは受け取って、何かを好きになる。楽しみ方へのアプローチを誰も作っていないものを好きになることはない。

山登りだとしても、僕らはどんな山でも登れるわけでない。人が何度も登り、整備された道を歩いて山を好きになる。全ての好きへの道は、山と同じだ。もう誰かが整備してくれている。そして、僕らはそれを好きになり、好きになるという行為は、次の人へと道を整備することでもある。

音楽にしても、文学にしても、ゼロイチで創作しているのではない。自分が影響を受けたアーティストや作家には、彼ら彼女らに影響を与えた存在がいて、その繋がりはどこまでも続いていく。長い歴史のなかで、その姿形に変化はあれど、音楽や文学に感動した体験が多くの人に受け継がれて、現在に至っている。

ぼくらは、自分の力や、対象の魅力で、何かを好きになると思いがちだ。だけど、その好きは、誰かの思いを受け継いでいる。その受けついでいる感覚を持つと、「おすそ分けしよう」という気持ちが自然と湧くのではないか。

そんな風に考えていくと、自分だけが遭遇した完全にオリジナルな感動体験なんてものは、存在しないのではないかと思う。「好きのおすそ分け」とは、誰かから受け継いだ「好き」を、また別の誰かに受け継ぐ行為だ。

自分の好きが見つからない時、「自分は社会の中の何を受け継ぎ、そして、次の世代に受け渡したいか」と問いを変えて、社会を見つめてみると、いつもと違うものが見つかるかもしれない。

多くの先人たちからの影響をぼくらは受けているし、先人たちのおかげで成り立っていることがたくさんある。だけど、それが当たり前すぎて、それになかなか気づくことができない。その当たり前を丁寧に紐解いていくことが、自分の「好き」を見つけるきっかけになるだろう。

ぼく自身、「受け継ぐ」「引き継ぐ」という言葉について、よく考えるようになった。

息子たちが成長するにつれて自我が強くなり、容姿だけなく、自分と似ていると感じる部分を目にすると、遺伝子が息子たちに引き継がれていることを感じる。おそらく、ぼくの両親も、ぼくの振る舞いを見て、自分たちの遺伝子が受け継がれていることを感じていたであろう。親子3代の真ん中に立つと、遺伝子の繋がりを強く感じる。ヒトという存在自体が、遺伝子を受け継ぐ動物なのだとしみじみと考えたりする。

これから、自分は、何を受け継いで行きたいのか?

福岡の僕の書斎は、受け継いだもので溢れているようにしようと考えて、祖父が購入したアートや、祖父が使っていた書斎机などを実家から取り寄せて、受け継いだものに囲まれるようにしている。そして、自分は、何を受け渡したいのかをいつでも考えれるようにしている。

受け継がれてきたものに耳を澄ませるのに、都心の喧騒はぼくには騒がしすぎるのだ。


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佐渡島庸平(コルク代表)

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