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終わりは、始まりよりも難しい

 いつ、どこで読んだかが思い出せない。ネットで検索したけど、見つからなかったのだが、高校生の頃に、フロイトが「自分は突然死は望まない。癌になって、緩やかに弱っていき、死や痛みなどを見つめたい」というようなことを言っていたというのを読んだ。高校生の僕は、いたくその考え方に共感した。そして、今もその想いは、変わっていない。僕は「知りたい」という要求を強く持っていて、それは正だけなく、負の感情にも当てはまる。死の直前、僕は、死というものをどのように理解するのか? その理解は、今と変わるのか、を僕は知りたい。

 しかし、具体的に、どこでどのような死に方をするのかという詳細をイメージしようとすると、急にすべてがぼやけてくる。想像力が働かない。

 終わりは、いつだって、始まりよりも難しい。

 赤ん坊が生まれる時は誰もが注目し、その奇跡を祝うが、どのようにその生を終えたのかは注目を浴びづらい。

 人生だけでなく、作品も同じだと思う。連載を勝ち取ることも難しいし、さらにそれをヒットさせることも難しい。しかし、何よりも難しいことは、作品に美しい結末を用意することだ。マンガは、連載がどんどんと長期化することが増え、きれいに終わっている作品が少ない。終わり際を間違えて、どんな終わり方だったかが、いつも思い出せなくなる作品もある。

 今週の月曜日、僕が担当している曽田正人の『テンプリズム』の最終話が更新された。単行本の最終12巻は2月28日発売。

 曽田正人という作家のすごさは、たくさんあるが、僕がもっともすごいと思っているのは、作品の終わらせ方だ。『シャカリキ!』『め組の大吾』『昴』『MOON』『capeta』そして、『テンプリズム』、どれも終わり方が本当に秀逸だ。

 すごく余韻があって、もっと登場人物と一緒にいたかった、という気持ちにさせられるのだけど、置いてきぼりにはならない。もっと、じっくり、ゆっくり描きたくなってしまうことを、大胆にテンポよく演出している。

 今回の『テンプリズム』も、あと、2、3巻、もしかしたら4、5巻で終わりそうな雰囲気になってきたな、どうやって終わらせるつもりか、聞いてみよう、と思っているタイミングで、急遽電話がかかってきた。そして、「あと1巻で終わるので、準備をしてください」と言われた。その決断の大胆さ、それが曽田さんの魅力でもあり、曽田マンガの魅力でもある。結末に向けて、どんどんと伏線が回収されていき、登場人物たちが今まで見せなかった顔をみせるようになっていく。

 多くの物語で、主人公は「特別」を目指す。誰よりも強くなり、誰よりも活躍して、世界を救う。自分が注目の的になろうと思う。しかし、『テンプリズム』の主人公ツナシは逆だ。自分の特殊な能力をきらい、それを重荷に思い、「普通」でありたいと思う。その「普通」になりたいという想いは、1話から最終話まで一貫している。ツナシが、他の物語の主人公と圧倒的に違うのは「普通」を希求していることだ。

 『テンプリズム』は、普通のファンタジーの構成と随分違う。ファンタジーでよくある王道の展開が、やっと最終話ででてきたりする。それは、すべて主人公が「普通」を目指していることに起因している。

 若者が特別ではなくて、普通を追い求めるという物語は、かなり現代的で、若者の心理とつながるところがあると感じている。連載中、その曽田さんの意図は、読者にうまく届いてなかったと反応をみながら感じていた。最終話が発表されたこのタイミングで、ぜひ、一気読みをしてほしい。ファンタジーにみえて、現代について描いている、すごくリアルな作品だということがわかるはずだ。

 『テンプリズム』最終話はこちらから

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コルク代表・佐渡島のnoteアカウントです。noteマガジン『コルク佐渡島の好きのおすそ分け』、noteサークル『コルク佐渡島の文学を語ろう』をやってます。編集者・経営者として感じる日々の気づきや、文学作品の味わい方などを記事にしています。
コメント (1)
こんばんは。^^
私は、天災で死にかけた時は、途中までは「嫌だ、ここで死にたくない!」と叫んでいましたが、ふと、「もう、どっちでもいいや。」と吹っ切れました。

知人の重い病気からの死では、ある薬を飲むか飲まないか、どちらか忘れましたが、それをすると、家族ともう話が出来ず意識が失くなり、亡くなる、という死でした。病室での最期の家族との会話の想像は、想像では収まらないと思います。
死ぬ時も色々だと思いました。


赤城 春輔
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