あい

神様とは何かをマンガで問う『アイ』

この作品の一番の魅力は、レビューができない、ということだ。

あらすじを言おうにも、うまく言えない。無理矢理、書いてみてもこんな感じだ。

不思議な能力を持ち、神様を見ることができるイサオ。イサオに興味を持った雅彦は、少しでもイサオが感じている世界を理解し、神様に近づこうと、自ら目をつぶし失明する。イサオと雅彦が、見た神様とは?

このあらすじで、面白さを伝えられた気がしない。でも、この『アイ』という作品は、絶対に読んだほうがいい作品だ。

いがらしみきおは、言語化不可能な感覚を、言語化ではなく、マンガ化している。

マンガにしかできない表現を実現して、何かを確実に伝えている。それを言語化しようとしているから、このレビューは苦戦しているのだが。

『アイ』を読むと、確実にこちらの心に何かが残る。その残った何かは、世界を見る僕らの目を、読む前とは変えてしまうような何かだ。

中学生の雅彦は、こんなことを考える。

友だちと言えるようなヤツはいたが、 友だちってなんなのかわからなかった。 家が医者だからなのかどうか知らないが、 俺はいつか自分の心臓も止まってしまうのだと思っていた。 毎晩心臓のことばかり気にして、一睡もできないこともあった。 自分は動かしているつもりはないのに いったい誰が心臓を動かしているのかふしぎでしょうがなかった。 この世は謎だらけだった。オレはなぜ生まれてきたのだろう。 この人たちは誰なのだろう。 そしてこの世界ーーーここはいったいどこなのだろう。

雅彦と同じようなことを考えたことがある人は、『アイ』を読んだほうがいい。あらすじに書けるようなストーリーはないのだけど、どんな哲学書も答えることができない、上記の謎の答えに少しは近づけるかもしれない、そんな気持ちになって、先がどんどん気になる。

読み終えた後、僕らは明確な答えを手にしている訳でない。読んでいる最中も、読み終えた後も、心がざわざわして居心地が悪い。しかし、あまりにも漠としていて立ち向かいきれない問い「オレはなぜ生まれてきただろう」に対峙するための、手助けとなる道具を何か一つは手に入れることができる。

僕は、『アイ』を読んだ人と「真っ暗な青空」について、ぜひ語り合いたい。

小林まことのレビューでも書いたが、最近、ベテラン作家が、傑作をどんどん生み出している。ベテランにしか描けない、マンガの可能性を広げるすごい作品だ。しかし、マンガ業界にそのような変化が起きていることに、多くの読者は気づいていなくて、あまりにももったいない。

いがらしみきおの『羊の木』は、最近堀江貴文がレビューを書いた。こちらは、原作者として、山上たつひこがいるが、こちらも傑作である。

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