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判断保留の態度で、疑問をいかに楽しめるか? 若新雄純さんと手塚マキさんに聞く、社会を観る思考プロセス

編集者にとって欠かせないもの。それは、社会への観察力だ。

起こっている事象から、社会の変化や時代の流れを汲みとる。それがコンテキストを生むことであり、読者に寄り添う作品を創ることに繋がる。そして、観察で大切なのは、先に結論を決めずに、「判断保留」の態度で接することだ。

ただ、多くの人は常識というフィルターがかかった色メガネをかけて、物事を観察しているように感じる。そうではなく、まずは主観を排し、物事をありのままに見つめ、その背後にある「面」を捉える。

先日、この社会を観る際の思考プロセスについて、慶応義塾大学でコミュニケーション論を教える若新雄純さんと、元歌舞伎町の有名ホストで現在はホストクラブなどを経営する手塚マキさんと対談した。

若新さんとは、僕が編集を務める『スタディサプリ三賢人の学問探究ノート』で知り合った。この本では「学問とは何か」をテーマに、様々なユニークな研究をしている大学教授を紹介しているのだが、若新さんの社会を観る目は面白くて、もっと話を聞きたいと思っていた。

手塚さんとは、ホストを主人公にしたマンガの取材で知り合う機会があり、手塚さんの語るホストクラブで起る様々な話が、社会を凝縮しているように感じて、もっと深く話を聞いてみたいと思っていた。

今回、3月11日にコルクラボで行われた若新さんと手塚さんとの対談を、コルクラボのメンバーがレポート記事を作成してくれたので、それを共有する。

<記事の書き手 = 栗原京子、編集協力 = 井手桂司

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【写真・左】若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)さん
福井県生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
会社経営などを経て、現在は慶應義塾大学特任准教授および福井大学客員准教授を兼任。専門はコミュニケーション論。著書「創造的脱力~かたい社会に変化をつくる、ゆるいコミュニケーション論~ 」、「スタディサプリ 三賢人の学問探究ノート(2) 社会を究める」

【写真・右】手塚マキ(てづか・まき)さん
歌舞伎町でホストクラブ、BAR、飲食店、美容室など10数軒を構える「Smappa! Group」の会長。歌舞伎町商店街振興組合常任理事。JSA認定ソムリエ。
1977年、埼玉県生まれ。埼玉県立川越高校卒業、中央大学理工学部中退後、歌舞伎町で働き始め、NO.1ホストを経て、独立。ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を立ち上げ、街頭清掃活動をおこなう一方、NPO法人グリーンバードでも理事を務める。2017年には歌舞伎町初の書店「歌舞伎町ブックセンター」をオープンし、話題に(現在は閉店)。2018年12月には接客業で培った“おもてなし"精神を軸に介護事業もスタート。著書「裏・読書」、「自分をあきらめるにはまだ早い」

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女性をATMと見なすホストは悪なのか?

佐渡島:
そもそも若新さんと手塚さんは、どうやって知り合ったんですか?

若新さん:
以前、僕が出演しているニュース番組で、ホストに貢ぐ女性について議論する企画がありました。スタジオにいた人たちは総じて「女をATMというホストはひどい」という論調だったんですね。

でも僕は、貢ぐ女性側とホスト側の話を聞いているうちに「これは虚しさと虚しさが掛け合わさって引きつけあっている」と感じました。

ホストクラブに集う人たちが抱く寂しさの奥底にまで、あまり関心が持たれてなかった。女性側は、ホストクラブ以外に「君じゃなきゃだめだ」と寂しさを埋めてくれる場所がない。だから、ホストを批判しても問題は何も解決しない。ホスト側は、「誰かに必要とされたい」と自分が何者かであれる場所を探している。

それで「お互いに真空なんだね」と伝えました。すると、番組収録後に、ホストのみんなが「わかってくれてありがとうございます」ってめちゃくちゃ褒めてくれて。その時に、手塚さんが、Twitterで番組での僕のコメントに触れてくれたのが最初のきっかけですね。

手塚さん:
若新さんの言ってくれたことは、当事者からは言えないことでした。第三者から「彼らだって寂しいんだ」と言ってもらえることは、すごく価値がある。

若新さん:
貢ぐ女、貢がせるホストっていう関係を、みんなは一つの「点」として見ていたんですよ。そして多くの人は、問題解決が大事だと思っているので、「なんで貢いじゃうのか」「なんでATMって呼ぶのか」とその場にある問題を解決しようとする。

でも、社会というのは、無限に相互に関係しあって、とても広い「面」でできているものです。

広い「面」が複雑に存在している社会の中での、関わりのひとつの結果として、「点」が生まれている。だから、その点だけを見て、なにが起きているのかを話していてもダメなんです。問題は独立して存在しないので、点だけを見ても、根本的な問題は明らかにはならない。

まず、どんな大きなつながりの中で、その問題が起きているのか。現象を丁寧に捉えることが大切です。

手塚さん:
その番組の時の若新さんは、「なんでそんな端的に物事をみて発言をするんだ」って、スタジオのメンバーにずっと怒っていましたよね。

佐渡島:
僕も、点ではなく、面で捉えることは、すごく重要だと思います。

今、『コルクラボマンガ専科』というマンガの描き方を教えるスクールをやっていて、マンガに必要な要素を、「ストーリーの流れ」「キャラクターの作り方」「クライマックス」「絵」という4つに分けて教えています。この4つに分けた要素を生徒たちの中で統合してもらって、作品を作ってもらいたいと考えていました。

しかし、ひとつの要素を教えると、その前に教えた要素が抜けてしまう。生徒の中で要素の統合ができていなんだなと感じています。でも、映像や、クリエイティブといわれるものって「統合」が肝になると思うんですよね。

若新さん:
学校でも、点で捉えて、点の問題を解決する方法を学ぶことが多いですからね。

手塚さん:
若新さんの番組では、自分が理解できないことに対して、「意味がわからない」と繰り返している人が多くて、貢ぐ女と貢がせる男がいる現象を「受け入れよう」とする気持ちがスタジオの人たちにはなかった。

若新さん:
多くの人は「解決しないといけない」と思っているんですよ。

でも、ホストへ貢ぐ女という現象を本当に解決しようと思うなら、もっと広い文脈で社会を捉えないといけないわけで、点だけを見て解決することはそもそも意味がないんですよね。


関係性が全てのアウトプットを決めていく

佐渡島:
これからの時代、単純労働がAIに置き換わっていく時に、人と人とのコミュニケーションの価値が高まってくると思います。

その時、「喜び」と「喜び」を交換するコミュニケーションより、先ほどのホストクラブの話のような「虚しさ」を埋め合うようなコミュニケーションのほうがスキルが求められるので、価値が高まると考えていますが、おふたりはどう思いますか?

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佐渡島庸平(コルク代表)

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コルク代表・佐渡島のnoteアカウントです。noteマガジン『コルク佐渡島の好きのおすそ分け』、noteサークル『コルク佐渡島の文学を語ろう』をやってます。編集者・経営者として感じる日々の気づきや、文学作品の味わい方などを記事にしています。