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"観察力"の鍛え方とは何か

いま、打ち合わせの合間の時間は、ほとんど全て本の執筆に費やしている。

これまで、ぼくは2冊の本を執筆した。

1冊目の『ぼくらの仮説が世界をつくる』では、編集者として大切にしてきた考えを言語化しながら、これから挑戦したい仮説を文章にまとめてみた。2冊目の『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE』では、コミュニティについての自分の理解を深めたいと思って、執筆に取り組んだ。

両方とも、書き終えるまで、かなりの時間がかかった。

ぼくにとって、本を書くとは、自分の思考を整理し、深める行為だ。頭のなかに既に明確な答えがあるものを原稿にまとめるのではなく、本を書くことを通じて、ぼんやりと考えていたことへの解像度を高めていく。具体と抽象を行き来しながら、考えを煮詰めていくので、どうしても時間がかかる。

それにも関わらず、いま、3冊の本の執筆を同時並行で行なっている。

完全にスケジュールを失敗して、なかなかピンチだ。どの企画もずっと前から動いていて、全く違う時期に出るはずだったのに、各社の事情と絡み合って、出る時期が被った。編集者の社内の事情もよくわかるから、無碍にもできない。

1つ目は、「観察」についての本。

2つ目は、石川善樹とマンガ家の羽賀くんとの鼎談をまとめた「感情」についての本。

3つ目は、細谷功さんとの対談をまとめた「具体と抽象」についての本。

観察。感情。具体と抽象。

これらの本のテーマは、バラバラのように自分でも感じていたが、なぜ同時期に思考したいと自分が思っていたのか。最近になって、3つの繋がりが見えてきた。

以前から、ぼくは新人マンガ家をはじめとしたクリエーターには、観察力を鍛えることが大切だと言ってきた。ぼくが出会ってきた超一流のクリエーターたちは、他の人が見落としてしまう美しさや面白さに気づいて、それをアウトプットに落とし込める人たちだったからだ。

でも、「観察力とは何か」「観察力を鍛えるには、どうすればいいのか?」と聞かれると、明確な答えを持ち合わせていなかった。日々の努力と人間力というような曖昧な、逃げたような答えになっていた。

新人マンガ家の成長を支援していくためにも、観察を深く理解をしたいと思ったことが、観察についての本を書こうと考えた発端だ。

この2年間、観察について色々な尺度から考えてきた。観察という言葉は、仏教から来ているので、仏教を調べたりもした。

観察とは、「何ものにも囚われず、あるがままに観ること」だと考えたが、では「囚われていない」とはどんな状態なのか、「あるがまま」とはどうやったらわかるのか、と問いの方向を変えると、すぐに答えに淀んでしまう。

自分がきちんと観察できているどうかの振り返りができないと成長するための課題が見つけられない。自分はありのままに観ていると考えていても、それを証明する手立てがない。観察力を鍛えるにあたって、振り返りができないことは致命的だ。

観察とは何なのか?

先日、この問いに対する大きな気づきを得た。きっかけとなったのは、哲学者の苫野一徳さんを招いた、新人マンガ家たちとの合宿だ。「本質観取」というワークショップを行った。

その結果、いい観察とは、以下の条件を満たすものだと考えるようになった。

1 問いの連続性
2 仮説的発見の連続性があり、
3 興奮する自己了解の深まりがあり
4 普遍化可能性があり、表現できる

仮説、観察、問い。この3つをグルグルと繰り返す中で、思考が深まっていく。

苫野さんたちと議論するなかで辿り着いた観察への仮説だ。

そして、仮説をもって観察する際に留意すべきは、自分の「感情」だ。認知バイアスと感情が観察を邪魔する。感情によって、観えるものの受け取り方は変わる。感情への解像度を高めることが、観察の質を高める。感情を深く理解することで、観察の武器にすることができる。

また、観察で発見したものは圧倒的な具体だ。その具体から、問いを立てていくには「具体と抽象」を行き来する必要かある。

それぞれ別の企画としてはじまったが、3つの川が、ひとつの大きな川に合流したような感覚を覚えている。この3冊を書き終えることで、ぼく自身の観察のあり方が変わりそうだ。

今後、ぼくのnoteマガジンでは、有料読者向けに、執筆中の本の原稿の先だしをしていく予定だ。参考にしたいので、気軽に感想やコメントをもらえると嬉しい。


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