ふたつの約束が、同時に果たされた
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ふたつの約束が、同時に果たされた

先週、『宇宙兄弟』の40巻が発売した。

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「この瞬間を、ずっと待っていた。」

この言葉は、宇宙兄弟を愛する全員に共通する想いだろう。兄弟が宇宙を目指す物語としてはじまった宇宙兄弟だが、ついにふたりが宇宙で出会う瞬間が描かれるのが、この40巻だ。

2007年から連載を開始し、ムッタもヒビトも様々な仲間と出会い、お互いに成長しながら、ようやくここに辿り着いた。

ぼくは、小山さんから送られてきた、ふたりが出会うシーンが描かれた回のネームを読んだ時、目頭が熱くなった。こんな風に描くとは、全く予想していなかった。

だけども、宇宙兄弟という作品を考えると、「これしかない」というような完璧な描き方だった。

ネームを読んだ後、すぐに小山さんに連絡をして、「よくこんな描き方を思いつきましたね」と伝えた。そして、感動を伝えていると、なんだかもっと気持ちが込み上げてきて、号泣する感じで泣いて、小山さんに笑われるくらいだった。

小山さんと話しながら、この1話は、感動的な1話なだけでなく、奇跡的な1話だと感じてきて、走馬灯のように10年間が思い出されて、涙が止まらなくなった。作品も素晴らしいが、小山宙哉という作家の人間性がすごく魅力的で、そこに感動した。

宇宙兄弟の連載が始まる前。ぼくと小山さんは、お互いの好きなマンガについて語り合って、いいマンガとは何かと考えていた。

そのなかで、『スラムダンク』について話した時のことだ。

山王戦の終盤で、「バスケットは好きですか?」という問いかけに対して、「大好きです」と桜木が答えるシーンがある。スラムダンクには数多くの名場面があるが、この場面こそ、この作品のすごさを象徴していると思う。

バスケ漫画で「バスケが大好き」なんて当たり前すぎて、捻りのないシンプルな言葉だ。でも、作品をここまで読み進めた読者からすると、この言葉の裏にある桜木の感情の動きを感じずにはいられない。そして、感動する。

ぼくらは、言葉自体の言い回しに感動するのではない。その言葉が、どんなタイミングで、どんな人物から発せられたかで感動する。

こういうシンプルな言葉が特別な意味を持つ瞬間を作れるのが、物語の力であり、マンガの力だと、ぼくは思う。

だから、小山さんとも、「こういうシンプルな言葉で、ものすごく感動できるようなシーンを作れたらいいですね」と、連載前に話をしていた。

それから、10数年。打ち合わせの数ある話のなかのひとつだったので、こんな話をしたことを、ぼくは忘れていた。でも、小山さんは覚えていた。そういうセリフを宇宙兄弟でも生み出し、スラムダンクの感動を自分たち流で再現しようと機を伺っていた。

「We are "Space Brothers"」

ムッタとヒビトの約束が叶った後に発せられる、このシンプルな言葉に、ぼくはものすごく感動した。

そして、ぼくが新人編集者で、小山さんが新人マンガ家だった頃に交わした約束を果たした言葉であることを知り、二度感動した。

ムッタとヒビトの長年の約束が叶った瞬間に、マンガ家小山宙哉とぼくの長年の約束も同時に叶った。この2つの約束を同時に叶えてきたことに奇跡を感じた。

ぼくと小山さんは男同士だし、お互いに年齢も高くなって、知り合ってからの時間も長くなってきたから、ベタベタするような関係ではない。電話で長時間会話をすることも、近年はなくなってきた。

でも、ぼくが投げかけた言葉が、小山さんのなかで大切に扱われていて、そのことが作品を通じて伝わってきたのが、とても嬉しかった。

編集者が打ち合わせで投げかける言葉と、マンガ家を作品をつくる速度は違うので、当然そこには時差が生まれる。ぼくから小山さんに出した手紙の返事が、ものすごく時間をかけて、届いたような気がした。

これこそ、編集者とマンガ家の関係の醍醐味だと思う。

ノンスタイルの井上さんと小山さんが対談でした約束もこの巻で果たされていた(井上さんがどこかにいるので、読み直して探してみてください!)。

ぼくが気づいていない小山さんと周りの人の約束も、この巻で果たされているのかもしれない。

宇宙兄弟の40巻は、感動するというだけでなく、ぼくの人生にとって最も重要な巻になった。たくさんの人に、宇宙兄弟の優しい感動を是非、味わってみてほしい。


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