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第一章 「言葉」という砂上の楼閣

 僕の話を聞いてよくわかるという人と全くわからないという人がいる。同じ話をして、なぜそのような反応が起きるのか? 聞く人の知性の問題だろうか?僕の話し方の問題だろうか?
 世の中を見る解像度が違う人とは話が通じにくい、と僕は考えていた。そんな時に、細谷さんの『具体と抽象』を読んで、僕は膝を打った。抽象度のズレが通じなさを生んでいる。
 さらに運がいいことに、『具体と抽象』の担当編集者が、僕がこの本に感動していることを知らずに、細谷さんとの対談で本を作りませんか?と提案してきてくれた。もちろん、僕は二つ返事でやることにした。かなりの回数、対談を重ね、それが原稿になってきた。本にするにあたって、定期的な締め切りがないと完成させられない。
noteに出すことを締め切りにして、完成させようと思う。年内に出版する予定の『言葉のズレと共感幻想』の先出し公開!

「ダブリング」で知るギャップ

佐渡島庸平 細谷さんが考案した「ダブリング」、あれは非常におもしろいですね。二つの言葉の関係性を二つの円で表現するなんて。
 僕もすぐに試してみたんです。編集専科という講座を運営していたんですが、どうも講義が通じきらない。それで、言葉の定義が違っているんじゃないかと思って、「編集と企画」という二つの言葉でダブリングをやってみました。
 そうすると、受講者同士もそうなんですけど、講師のあいだでも「編集」と「企画」のそれぞれの言葉の定義が違うし、イメージする関係性も違っていましたね。

細谷功 言葉は抽象化の産物なので、人によって定義が違いますよね。それがコミュニケーションギャップの一因になっているわけです。
 たとえば「理想」と「現実」の関係をどう考えるか。二つが並列していると思う人もいれば、どちらかがどちらかに含まれていると思う人もいます。部分的に重なっていると思う人もいるでしょう。それを二つの円で表してもらうわけですが、それによって何がわかるかというと、「いかにわかり合っていなかったか」が可視化されます。二つの言葉について自分が、あるいは他の人がどう考えているかがわかるんです。
 ダブリングを描いてみると、すれ違いの原因が明らかになってきます。たかが言葉、されど言葉で、言葉だけでわかり合おうとしても、どうしても限界があるじゃないですか。もちろん、ダブリングによって人の思考特性の全容が把握できるわけではないし、可視化できるのは一つの側面に過ぎないけれど、シンプルな構造だからこそ違いが明確に出ます。
《■図1、ダブリングの図

佐渡島 これはいま、どくのくらいのデータが集まっているんですか。

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