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創作を願望で終わらせない。物語をつくる者の責任の果たし方

物語を創作する魅力とは、作品に触れた人の心に大きな影響を与えられることだ。

あのマンガや小説のおかげで救われた。生き方が変わった。自分を奮い立たせることができた。そんな風に、読み手の感情を揺さ振ることができる。

だからこそ、物語の創作に関わる者は、そのことに強い責任を持たないといけないと僕は感じている。

例えば、『宇宙兄弟』では、未だに原因も治療法も解明されていないALS(筋萎縮性側索硬化症)に対して、治療薬開発の実験に成功するシーンを描いている。

作者の小山宙哉さんとも、「作品の中で、ALSを勝手に治してしまって、本当にいいのだろうか?」と話し合った。

今の所、治療不可能と言われているALSの患者さんは、夢物語を描くな、絶望を深めるなとより現実を悲嘆するかもしれない。

一方、作品で描くことで、現実世界での治療成功は自分が成し遂げるぞという医者が現れるかもしれない。しかし、それはコチラ側の勝手な願いであって、そんな偶然を待っているだけでは、到底責任を果たしているとは言えない。

僕らはALS治療の成功を必然とする行動を起こしたいと思った。それが、宇宙兄弟の物語に、本気で関わり、責任を果たすということだと思った。

そうして生まれたのが、3年前から始まった、ALSの治療方法を見つけるための研究開発費を集める活動『せりか基金』だ。

せりか基金のプロジェクトに、小山さんはこんなメッセージを寄せてくれている。

「宇宙兄弟」の中でALSについて取り上げました。作中ではALSによって父親を亡くしたせりかが、同じくALSになったシャロンのためにも宇宙で実験を繰り返し成功させます。

ですが、これは漫画で近未来の願望を描いたストーリーであり、現実にはALSという病気は未解決です。この“せりか基金”はより多くの人の理解と気持ちが集まることで、ALSを治せる病気にしていくことが目的です。「宇宙兄弟」で描いた未来予想が、一日でも早く実現することを願っています。

小山宙哉

作家は、物語で近未来の願望を描くことで、「こういう世の中にしたい」と作品に触れた人々の心を変えることができる。物語を経由することで、ありたい姿の具体的なイメージや感情を共有することにより、滑らかに現実を良くすることができるのではないだろうか。

そして、物語の創作に関わる者は、その未来予想が現実になるように後押しをすることまで含めて、責任を果たすべく努力する。それは、作品づくりをサポートする。届けるのをサポートするよりも、さらにワクワクする仕事だ。

同様に、先月から高校生に株式投資を体験させる『N高投資部』の活動を、漫画『インベスターZ』は全面協力した。

インベスターZは、子どもの時にお金について学ぶ機会がなく、正しいお金の使い方を身に付けないままに社会に出ていく人が多いことに問題意識を感じたことがきっかけで生まれた作品で、投資教育の大切を訴える物語になっている。

作品自体は、ドラマ化もされるなど、人気作品に成長していったが、残念ながら日本の教育は特に変化はしていない。

そのなかで、投資のプロによる金融教育と実際に公開株を運用するN高投資部の活動が始まることを知り、その活動を是非とも応援したいと思った。

せりか基金も、N高投資部のサポートも、物語で描いた未来予想を現実に変える活動であり、物語に責任を持つ行為そのものだ。

物語で感情を先に動かしてから、現実を変えていく。

コルクは、物語をつくることをビジネスにする組織なのではなく、物語を現実に変えていくチームになることを目指している。

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佐渡島庸平/コルク代表

2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。

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