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メタバース時代、“分人化”はどこまで進むのか?

メタバースが発展していくなかで、人間のアイデンティティーはどう変わっていくのか?

先日、この「問い」について考えさせられる出来事があった。

それは、ドラゴン桜の三田さんに、ぼくのYoutubeにゲストとして出演してもらった時のこと。三田さんの前でYoutubeのMCとして振る舞うことが、異様に恥ずかしくて、ものすごく照れてしまった。

ぼくは三田さんに育ててもらった編集者だ。新入社員の頃から、多くのことを教えてもらい、ある種、三田さんは育ての親のような感覚がある。そんな三田さんの目の前で、いつもの調子で「オス、オス!」と元気よくカメラに向かって話はじめるのが、とても気恥ずかしかった。

例えて言うならば、学校の友達と話している姿を、親にずっと見られている感覚に近い。三田さんの前では見せたことのない自分の姿をさらけだすことがこんなにも照れるだなんて、撮影が始まってみるまでわからなった。

それまで意識したことはなかったが、編集者としてのぼくと、Youtubeでのぼくは違う「分人」だった。

ひとりの人間のなかに、多様な「自分(分人)」が存在すると主張しているのが、平野啓一郎が提唱する「分人主義」だ。

家族といる時の自分、職場にいる時の自分、学生時代の友達と話ている時の自分では、話し方も振る舞い方も変わる。それは意図的に演じ分けているのではなく、自然とそうなる。分人は一緒にいる相手や周囲の環境によって自然と引き出される。

普段は穏やかで口数が少ないような人物が、ブログやTwitterでは饒舌になり、現実に知っている姿とSNSでの姿が必ずしも合致しないというケースがある。それは、SNSごとの文化やそこで懇意にしている人たちとの関係の中で、引き出される分人が変わるからだ。

以前、宇野さんと『遅いインターネット』に関する対談をした時に、多くの人はSNSに「書いている」のではなく、「書かされている」と宇野さんは指摘していた。

自分が発信したものに反応をもらうと、自分が世界に素手で触れている感覚を味わうことができる。だから、SNSごとに好まれるカラーにあわせて、自然と自分の振る舞いが変わる。

ぼくのYoutubeは「マンガ編集者・佐渡島チャンネル」というチャンネル名にしているくらいなので、ぼく自身としては、編集者として普段仕事をしている時の自分とYoutubeの分人は同じだと思っていた。だけど、知らず知らずのうちに、Youtubeによって違う分人が引き出されていたのだ。

今年から、コルクラボのメンバーに手伝ってもらって、Tiktokの投稿に再挑戦をはじめたのだが、ここではまた違う分人が生まれてくるだろう。

SNSごとに分人が生まれ、無数の分人がネット上に存在する時代が訪れている。ここから更に、メタバースが発展し、メタバース空間ごとに違う分人が引き出される時代になったら、どうなるのか?

以前、「メタバース上の『NFTアバター制作』を、コルクがやる理由」というnoteで、アバターを身に纏うことで、これまでの自分とは全く違う「新しい自分」になることができると書いた。それは、ぼく自身がドラゴン桜の桜木としてVチューバー活動をして時に感じたことが原体験としてある。

メタバース空間ごとに新しい自分ができて、「このプレイヤーといる時の分人」とか、「このグループにいる時の分人」といった感じで、新しい自分の中にもまた複数の分人ができる。ひとりの人間の分人のネットワークが無数に拡張されていく。

パラレルな世界で、複数の分人で生きることができるようになると、人間のアイデンティティーはどう変わっていくのか?

今年から、コルクの新規事業として、メタバース上で使用できるNFTアバターを制作販売する『METABA』がはじまったけど、メタバース時代のアイデンティティーの問題に対して、興味が尽きない。


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