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本当の「優しさ」とは何か?

本当の「優しさ」とは、一体何なのだろうか。

優しさについて考え始めるキッカケは、『勝ち過ぎた監督』を読んだことだった。

これは、北海道勢初の甲子園優勝に駒大苫小牧を導き、そこから三連覇同然という高校野球史上最も輝かしい成績を残した香田監督を追ったノンフィクションだ。

香田監督は、僕から見ると、とてつもなく優しい。

高校球児たちの夢は甲子園に行くことだ。その目標をサポートすることが、監督として最も優しい行為なのだとしたら、香田監督は球児たちにとって優しい人だ。

一方、その場その場での香田監督の対応を見ると、大変厳しい人でもある。

香田監督は、球児たちが自分たち自身で考えてプレーすることを徹底して指導している。香田監督のやり方について、本の中でこう書かれていた。

「監督のほとんどは『やれ』だから。違うんだよ。自分たちで考えて『やる』んだよ。そこに気づかせることができるのが、いい指導者。ぼんくらな指導者は押しつけるだけ。香田は練習中に、よく止めるでしょう。それで自分たちで考えさせるんだよ」

さらに選手たちが強い緊張感を持って練習ができるように、選手を怒鳴りつけたり、時には手が出ることもある。

最後には、香田監督の教え方は暴力的で、そんなやり方は望んでいないと、生徒たちから否定され、部員が喫煙や飲酒をする不祥事も起こり、香田監督は駒大苫小牧を去ることになる。

この『勝ち過ぎた監督』は、香田監督の優しさについての話であると同時に、その優しさが相手に全く伝わっていなかったという話でもある。

香田監督は、甲子園優勝後に起こる様々な出来事により、パニック障害となり、飛行機などの交通機関にほとんど乗れなくなってしまう。途轍もない成功とともに、途轍もない代償も払っている。幸せや成功とはなんなのだろう。そう問わずにはいられない本だった。

「優しさ」の定義は、すごく難しい。今、この瞬間の態度が受容的であることを優しいというのか。それとも、未来の結果のために、真実を突きつける態度を優しいというのか。優しさは、時間の切り取り方で、全く変わってしまう。

以前マガジンにも書いたが、ケアを優しいと思うのか、セラピーを優しいと思うのかの差かもしれない。香田監督はセラピー的だ。僕は、それを優しさだと思った。しかし、選手の多くが監督に望んでいたのは、ケアだったのだろう。

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優しさについて考えているはずが、結局は以前と同じケアとセラピーの話だった。僕が、そのことを考え続けているのは、子育てや新人漫画家と打ち合わせをしていると、僕がどのように振る舞うことが、本当に相手の為になるだろうかとずっと自問自答しているからだ。

僕にとっての「優しさ」は、相手のためになるかどうかが、一番の基準なのだろう。

高校球児にとっての甲子園のように、僕が新人マンガ家たちと目指していることは、2年以内にマンガで生活していける状態にして、ヒット作を生み出す。

その目標をサポートする僕にとって、彼らが的外れな努力をしている時に、「頑張ってるね」「努力しているね」と褒めることは、表面上は優しいかもしれないが、それは本当の優しさとは思えない。短期的には、自分の無力感を覚えるかもしれなくても、今何をなぜしないといけないのか、やっていることがどう的外れなのかを理解できるように伝えることが必要となる。

一流になるためには、今日の自分に満足しないで、成長しないといけない。自分で足りていないことに気づけていれば、サポート役がやることは簡単だ。相手の知りたがっている情報を渡せばいいだけだから。

自分ができていると思っている人。ダニングクルーガー効果状態の人に対して、どのように接せればいいのか。

「全然違う」「全然ダメだ」と強く否定をすることで、自分への客観視がはじまればいいと思ってやっている。もちろん、否定は、野球、漫画というジャンルに限ったことであり、人格ではない。しかし、受け取る側は、人格が否定されたと感じやすい。どのように相手に伝えることが、本当に相手のためになるのだろう?

僕は新人漫画家たちが、「必死」にやっているとは思ったが、「本気」だと感じなかった。漫画家の孤独な努力は継続が難しいと思ったから、新人同士のコミュニティを作った。しかし、そのコミュニティ内で、世間では通用しない漫画を褒め合う、本気のぶつかり合いがない、馴れ合いが生まれてしまった。このままだと逆に全員の成長が止まる。じれったくなった僕は、作家たちとコミュニケーションをとっているグループで下記のようなメッセージを書いた。

ネットによって、プロとアマの差はなくなってきた。だからこそ、本当に自分を律することができて、努力を続けることができる人間だけが勝つことができる。自分の課題を見つけて、1つずつ丁寧に課題をクリアしてる人だけが、思考が深い人間だけが、勝ち残る。そして、生き残る。

思考が深くない人は、いい習慣がない人は、消えていく。

鬼気迫るとは、毎日、努力をしていて、成長する姿から漏れ出してくるものだろう。この漫画家のグループは、お互いを刺激し合うところだ。一流のアウトプット、一流の振る舞い以外は、全ていらない。それを目指す過程をさらけ出すのはいい。拙くてもさらけ出して、高めあっていく。実行よりも先に目が育つ。できないものを指摘できないと、できるようにはならない。

漫然と漫画を描いていると1年なんてあっという間に経ってしまう。変わらなくても仕方ないと思ってる気持ちが1ミリでもある人間は変わらない。

情熱をぶつけ合って、人は成長する。

僕は、みんなの成功の保証人ではない。みんなが成功するためにサポートするパートナーだ。僕の評価なんて気にする必要はどこにもない。ファンに届いているか。ファンの心に届いているかを徹底的に考えよう。

自分に残された命は、1年しかない。それくらいの気持ちで、漫画を描いていこう。

成功を強烈に望んでいない人のところに、絶対に成功はやってこない。やってきたとしても、それはまぐれ当りで、継続的に持続はしない。

野球の試合だと、負けた時に試合の点数がわかるので、現在と目標の乖離が客観的にわかりやすい。でも、マンガのようなエンターテインメントでは、作品の良し悪しを点数で表すことができない。その結果、自分の都合の良いように解釈ができてしまう。自分にとって気持ちのいいように作品を解釈し始めると、そこで作家の成長は止まる。

マンガ家たちが自らの課題に気づき、自分自身で作品を磨きあげることがことができる状態になるためには、どうしたらいいのか? 彼らの目標を叶えるパートナーとして、僕に求められる優しさとは何なのだろうか? 

ダニングクルーガー効果状態から、人が抜け出すための、有効なサポートは何か? 認知バイアスをめぐる様々な心理学の本はある。認知バイアスの種類は自覚できる。しかし、それから逃れる方法が書いてある本を読んだことがない。

僕が新人漫画家をもっとうまくサポートできるように、もしも知っている人がいたら、教えてほしい。教えてくれる人に出会いたくて、自分の悩みを率直にさらけだしてみた。

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佐渡島庸平/コルク代表

2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。

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