僕は心の叫びを聞きたい
僕は、作家の心の叫びを聞きたくて、編集者になった。心の叫びを、そばで、一番初めに聞きたい。
ヒットさせるのは、二番目の欲望だ。編集者として価値を発揮したいから、ヒットできるように努力する。でも、僕の一番目の欲望は、心の叫びを聞く、だ。
先週のブログも安野モヨコについて書いたが、今週もだ。
4月8日発売のフィールヤングに掲載する『鼻下長紳士回顧録』の原稿を受け取り、僕は興奮している。2015年の10月に発売した上巻の続き、久しぶりの原稿だ。
多くの作家から受け取るほとんどの原稿は、物語という服を着ている。その服を脱がせていくと、その下には、心の叫びがある。しかし、それは、儚い声であることが多い。
『働きマン』や『ハッピーマニア』という作品は、物語の服を着ている。『バッファロー5人娘』『さくらん』『鼻下長紳士回顧録』の娼婦3部作は、比較的、心の叫びが直接的に描かれているほうだ。
中でも、今回の原稿は、心の叫びが、とても大きかった。読み終わった後、「ああ、僕はこういうものを、触れるのに戸惑ってしまうようなものを、読みたかった」のだと思った。最近は、商品として完成された作品が多い。(もちろん僕の普段の仕事は、その一翼を担っている)商品として完成させることもとても難しいことなのだけど、生の感情をそのまま原稿に宿すことも、同じようにすごく難しい。そして、今回の原稿には、生の感情が宿っていた。
今回の原稿の途中に、ファンによる誕生日パーティーがあった。作家は自分の作品のファンの存在をなかなかリアルに感じられない。一部のファンは、本を読むだけでなく、作家をサポートしたいまで思ってくれたりするけど、その想いはなかなか作家まで届かない。それで、安野さんに内緒で、ファンと一緒にサプライズパーティーを開こうと僕は思った。熱いファンと安野さんが会うことで、僕の予想を超える化学反応が起きることを期待して。残念ながら、パーティーが開かれることをツイートで安野さんが発見してしまって、サプライズにはならなかったのだけど、ファンの人と深く交流するパーティーとなった。そして、それは安野さんに大きな影響を与えたと思う。
今回の原稿が、普段よりも生々しい、力強いものになったのは、安野さんと直接会ったファンの力が大きい。パーティーは、原稿の途中だった。それで、力をもらった安野さんは、普段よりも大きな声で叫ぶ勇気を持てたのだと思う。作家なのだから、心の声を叫ぶのは当たり前だと思うかもしれない。でも、その叫びは、あまりにも繊細で、個人的なことだから、読者の聞く準備が整っていないと、臆してしまってできない種類のものなのだ。ファンの人達と会ったことで、原稿の最後の微調整のあり方が大きく変わった。
『鼻下長紳士回顧録』は、これから毎月、もしくは隔月のペースで連載をできそうである。どんな風にして、物語は終るのか。これからもっと心の叫びが大きくなりそうで、楽しみで仕方がない。
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