リアルかオンラインか…は、的外れな問い
Clubhouseやポコチャは、なぜ流行っているのだろう? オフィスは、リアルとオンライン、どちらがいいのだろう?
全く関係ない二つの問いをつらつらと考えていたら、頭の中でその二つが、一つの問いになり、自分なりの答えがでた。
同期コミュニケーションか、非同期コミュニケーションか。この軸で観察するといいのではないか?
リアルかオンラインかの二項対立で考えてみたり、どのSNSがいけているのかを考えてみたりすると、答えが出てこない。
同期か、非同期かで考えると見えてくるものがある。
リモートワークが中心になった時に、Zoom飲みが一時期流行ったのと、Clubhouseは同じだ。どちらも同期コミュニケーション。Zoom飲みは、少しずつ時差があり、声がかぶると、どちらの声も聞こえにくくなったりと、発話のタイミングの見極めが難しい。会議レベルのコミュニケーションなら問題がないが、飲みとなると同期具合が不完全で、ストレスを感じるから、Zoom飲みは継続しなかった。Clubhouseは同期具合が、Zoomよりも滑らかだったから一気に広がった。
重要なのは、リアルか、オンラインかではなく、同期が滑らかかどうかだ。
リアルの中でも、同期が滑らかかどうかを、ぼくらは意識している。リアルでは、同期が滑らかなことを、サービスがいいと表現しているのではないか。ファーストフードの店員よりも、一流ホテルのスタッフの方が、お客の状態に同期して滑らかなサービスをしてくれている。
コロナによって、音楽の世界では、ライブ配信が一気に加速した。リアルか配信かで議論される。しかし、重要なのは、配信の同期が滑らかになるかどうかだ。リアルのライブ会場でも、ネットによる同期が行われもっと滑らかになる可能性がある。一度、その滑らかさに慣れると、元には戻れない。観察すべきは同期の滑らかさで、今の配信はリアルにまだ劣っているから、リアルの方がいいとなっているだけにすぎない。
同期されているものは、コミュニケーションの摩擦が生まれる。そして、その摩擦によって、熱が高まっていく。同期コミュニケーションは、熱を高めるのに向いている。ネットの初期は通信容量の関係で、同期が無理だった。それがやっと今可能になり、世界のあり方が圧倒的に変わろうとしている。
そもそも文化とは、非同期コミュニケーションの集積とも言える。YouTubeやNetflix、Instagramのインフルエンサーも、非同期コミュニケーションが得意な人たちだった。もちろん映画や本も、非同期コミュニケーションだ。思考を熟成して、完成物を世に出していた。その世に出すペースが、一部のSNSでは早くなり、その早さに対応できている人がインフルエンサーになりえていた。
今までのクリエイターの中心は、非同期コミュニケーションが得意な人だった。ゲーム実況をする人など、これから現れるクリエイターは、同期コミュニケーションが得意な人だ。
そして、同期コミュニケーションでは、マルチタスク能力が求められる。普段マルチタスクというと、違うタイプの仕事を進めていて、本当に同時に複数の案件をこなしているということは少ない。F1のドライバーだったり、パイロットだったりが、話しながら操縦したりとと本当にマルチタスクだったりする。ゲーム実況は、ゲームをしながら、それを面白く解説し、ファンのコメントにも対応すると3つの動作を同時にする究極のマルチタスクとも言える。
同期コミュニケーションが、どんどん滑らかになっていくと、クリエイターに求められる資質が変わっていくだろう。
一方、非同期コミュニケーションの価値がなくなる訳ではない。非同期で、作り手側と受け手側に時差が存在すると、コンテクストは共有できない。アリストテレスの本など、2,000年以上前に書かれたものが、ありとあらゆる時代の人に時差で、心の中で同期されるというのは、奇跡的なことだ。まるで、何万年も昔に放たれた、遠く離れた場所で輝く星の光を、今、夜空に眺めるようなものだ。
どうやって、コンテクストを共有していない人に、深い理解をさせるか。それがクリエイターに求められていた。非同期コミュニケーションは、コンテクストを必要としない分、本質的にならざるをえない。そうでないと、残ることができない。
新たなコンテクストがどんどん生まれ、瞬間的な熱量を高める「同期コミュニケーション」。
コンテクストを超えて、知らない誰かの心にも届ける「非同期コミュニケーション」。
誰もがライブ配信もコンテンツ発信も可能にできる時代において、この2つのコミュニケーションは2項対立ではなくて、どう組み合わせていくかが重要なのではないかと、ぼくは考える。そして、同期コミュニケーションは、今までリアルしか存在しなかった。どうすると、より滑らかな同期コミュニケーションになるかは、人類全体で全く積み重ねがない。
ソクラテスは、産婆術という対話方法を使っていた。どうやら、それはすごい同期コミュニケーション術っぽい。しかし、それはアーカイブされていないから、細部がわからなくて誰も再現できない。これからは、同期コミュニケーションもアーカイブされ、分析され、知見が溜まっていく。
両方のコミュニケーションをおこなっていくことがクリエイターに求められるようなる。
これは、会社の経営においても同様だろう。
例えば、社員が集まる全体会は、リアルの場ですべきか、それともリモート参加でもOKかといった議論がよくある。でも、本当に大切なのは、その施策によって、社員のエンゲージメントが高まるかどうかだ。だから、同期コミュニケーションの時間が、どれくらいあるのかを意識する。
リアルでやろうが、オンラインでやろうが、それが「同期コミュニケーション」であることを感じさせる状態になっていなければ、そこに熱は生まれない。用意されてきた情報を読み上げるだけの場になっていたら、本末転倒だ。どうやって、新しいコンテクストをその場で生み出していくかが重要なのだ。
また、企業文化のような積み重ねることが大切なものは、「非同期コミュニケーション」が重要となる。コルクでは行動指針の浸透のために社員向けのマンガ制作を請け負ったりすることがあるが、そういう社員のバイブルとなるようなコンテンツは、どうやって質をあげていくかが重要になる。
「ドラゴン桜2」では、スタディサプリを紹介している。スタディサプリがやろうとしていることは、授業という「同期コミュニケーション」だったものを、もっとも質の高い「非同期コンテンツ」を用意して、教師は子供の心のケアという同期コミュニケーションをするように促している。教育に同期と非同期をうまく組み合わせるためのサービスだ。
いかに同期と非同期を組み合わせるか。この問いはやっと立ち上がったばかり。どうやってこの問いへの解像度をあげていくかだ。
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