オチビサン_ノート_2回目

うれしすぎて、リアクションがうまくできないこと

  編集者がしない行為に一つに、サインをもらう、というのがある。

  担当作家は、大好きな作家である。その記念の巻とかは、本好きとして、サインをもらって大切にとっておきたい気持ちになることもある。でも、原稿でクタクタで、ファンのためのサインでクタクタなところに、サインをお願いするのは心苦しすぎる。僕は、この15年間、一度も作家にサインをお願いしたことはない。

 作家との打ち合わせで、普通なら話さない自分のプライベートを話し、それが作品に活かされることがある。それももちろん嬉しいのだけど、それはアイディアが役立ったということであり、プロとして仕事をしていると当たり前のことでもある。

 作家は、編集者を一番最初の読者として作品を描いてくれることがあるけど、編集者のために、作品を描くことはない。

 実は、安野モヨコが、僕のために作品を描いてくれたことがある。正確には、僕の息子たちのために。

 1年半ほど前、『鼻下長紳士回顧録』の上巻が発売されて、代官山蔦屋で安野モヨコがトークショーをすることになり、僕が司会をしなければいけなくなった。しかし、その日は、妻が三男を連れて法事で実家に帰っている。僕は、長男と次男の子守をすることになっていた日で、夜の寝る時間帯に初めてシッターさんにお願いすることになった。その話を聞いた安野さんは、僕の息子たちが寝る前に楽しめるようにと、なんとなんと絵本を描き下ろしてくれた。それが、『オチビサンとおるすばんのくに』だ。いつも僕は原稿をもらうのに必死なのに、いきなり描き下ろしのプレゼントだ。嬉くて、感謝したのだけど、あまりにもうれしすぎて、うまくリアクションできなかった。どういうリアクションが正しかったのか、今もってわからないし、別の形でどう恩返しをすればいいのかも分からない。当たり前だけど、この絵本は、定期的に我が家では読み返していて、最近、改めて奇跡のような経験だと感じた。1年以上たって、ようやく自分に起きたことを冷静に受けて止めれるようになってきた感じだ。

 『オチビサンとおるすばんのくに』には、息子たちの好きなポイントがいっぱい入っていて、個別の作品であると同時に、どんな子どもにも通じる普遍性がある。

 『不思議な国のアリス』は、キャロルが友人の娘アリスのために書いて、プレゼントした物語だった。それが普遍的な作品となったのだけど、それと同じことが自分の身に起きたのだ。『鼻下長紳士回顧録』を必死に売るためにいろいろやることは、恥ずかしさが伴わないのだけど、『オチビサンとおるすばんのくに』を売るのは、エゴなのではないか?という気持ちと気恥ずかしさがあって、うまく動けなかった。今までただ電子書籍で発売していただけだった。

 何度、読み直しても、とても素敵な構成で、しっかり絵本として世に出して、世の中の親子がもっと読めるようにしたほうがいい、という気持ちがフツフツと湧いている。

 『オチビサンとおるすばんのくに


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