嘘のさじ加減が絶妙で、羽照那島へ旅行したくなる『南国トムソーヤ』

嘘をつくのは、難しい。何が嘘かばれてはいけない時には、特に。

物語が作者のついている嘘だと感じ取った読者は、あっという間に作品にしらけてしまう。

うめの作品の特徴は、嘘のつき方のうまさだ。虚実の織り交ぜ方が非常にうまいから、大きな嘘も、そんなこともあるかもしれない、という気持ちになりながら読むことができる。

まずは『南国トムソーヤ』第1・2話の試し読みをどうぞ

南国トムソーヤ』は、沖縄の離島・羽照那島が舞台だ。そこには、神と話すことができる巫女のような存在の神司がいて、不思議なことが色々と起きる。神司の血を引く少女・ナミは、鍵アカウントのツイッターで届く、顔文字を通して、神の意向を理解している。こんな風に文字で読むと荒唐無稽な設定のように感じるだろうが、作品を読むとそういう不思議なことも、自然なこととして受け入れることができてしまう。リアリティのある絵柄で、内容もリアリティを重視しているうめの作風で、神司のようなキャラクターにリアリティを持たすのは、すごく難しいのに、すごくうまい。

早速バラしてしまうと、現実には羽照那(はてな)島という物語の舞台となった島は存在しない。「はてな」という名前から、すぐにそこも創作だと気づきそうなものだが、船の便がどうなっているかなど、細部の詳細もしっかり描かれているから現実の島を舞台に描いているのだと思ってしまう。

うめの作品は、実と虚がはっきりと分かれているのではなく、様々な情報に虚と実のグラデーションがかかって描かれているので、虚が多くなった場面になっても、実の部分と同じようにすっと読めるのだ。

沖縄にちょっと旅行しただけでは感じられない独特の不思議さを、物語を読めば感じることができて、その空気を本当に味わいに、旅行へ行きたくなってしまう。

うめは、小沢高広と妹尾朝子の二人からなるユニットの漫画家だ。小沢が、物語を分析する力が長けていることは、今までのレビューからもわかる。

『南国トムソーヤ』は、少年達の冒険を描いているという所だけが、トムソーヤとリンクしているわけではない。

『トムソーヤの冒険』の物語の構造を、一度分解して、再構成している。肌が白くて、都会から来たチハルが、トムソーヤ。野性的で、自由な生き方をするリンドウが、ハックに対応している。

そして、二人が洞窟の中に閉じ込められ、そこからどのように脱出するのかが物語のクライマックスになるところも一致している。『南国トムソーヤ』はタイトルだけなく、中味もふくめて『うめ版トムソーヤ』になっているのだ。

ちなみに、『トムソーヤの冒険』の続編『ハックルベリーフィンの冒険』は、アメリカ文学史における名作として、トムソーヤよりも高い評価を今も受け続けている。

ビッグコミックスペリオールで連載中の『スティーブス』は、うめと相性がぴったりなテーマを扱っていると思う。うめが、この後、どのような作品を描いていくのかもすごく楽しみだ。

3巻で物語が完結したので、最後まで一気にまとめて読むことができる。

南国トムソーヤ 2

南国トムソーヤ 3

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