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次に書く本のテーマは、間(あいだ)

ぼくにとって「本を書く」とは、自分の思考を整理し深める行為だ。

既に明確な答えがあるものを原稿としてまとめるのではなく、ぼんやりと考えていたことへの解像度を高めていく。「わからないけど、わかりたい」と感じている対象について、具体と抽象を何度も行き来しながら、考えを少しずつ煮詰めていく。

だから、一冊の本になるまでに、どうしても時間がかかる。コミュニティや居場所について考えた『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE』も、観察力について考えた『観察力の鍛え方』も、すごく時間がかかった。詳しいから本を書くのではない。詳しくなりたいから、本を書く。

そして、いま。次の本に向けた準備を進めている。

今回は「間(あいだ)」について考えを深めていきたい。

この「間(あいだ)」という概念に関しては、編集工学者の松岡正剛さんが主催する私塾に参加したことで、より意識するようになった概念だ。そのことについては、『具体と抽象を行き来する鍵、”AIDA(あいだ)”』というnoteに詳しく書いた。

人と人。物と物。人と物。人と事。その間にある「目には見えないもの」を見ようとすると、俯瞰をしないといけない。自然と具体と抽象を行き来することになる。

例えば、人間とは何かについて考えた時、特定の人物だけを見ていても、人間について理解でない。木だけを見て、森を理解するようなものだ。人と人の間にあるものは何か。人と間、その両方を見なくては、理解することはできないだろう。

間について考えることは、「編集とは何か」を考えることに等しく、まさに自分が考えていきたい対象だ。

加えて、間を考えることは、「関係性」について考えることでもある。

これまでのぼくは、作家といい関係を築くために、気づきを与えられる存在になりたいとずっと思ってきた。そのために、鋭い着眼点を身につけて、自分の言葉をもっと磨いていかないといけない。

つまり、こちらからの働きかけを上達することで、相手との関係を良くしていこうと考えていた。

でも、それはあまりにも言葉に頼りすぎているように感じる。

自分からの働きかけを工夫するのではなくて、相手との間にある関係性を変えてみる。間にあるものに目を向けている。そんな言葉にならないコミュニケーションが実は大切ではないかと、最近は考えはじめている。

例えば、安斎勇樹さんの『問いのデザイン』では、多くの企業で相互理解やコミュニケーションがうまくいかないのは「関係性の固定化」という病が蔓延しているからだと指摘している。

関係性が凝り固まったチームに必要なのは、お互いの前提を理解するための対話と、両者がフラットに話し合える「問い」が必要だ。

この「問い」を見つける行為こそ、お互いの間にあるものに目をむける行為ではないだろうか。自分と他者の間について考えることは、関係性を見なすキッカケとなり、関係性に揺さぶりをかけていく。

思い返すと、アドラー心理学では「課題の分離」という概念がすごく重要視されている。

多くの人間関係のトラブルは、「自分の課題」と「他人の課題」が混ぜこぜになっているから引き起こされてしまう。本人が自分の課題を解決しない限り相手は変わらないのだから、他人の課題に介入するのはやめよう。そして、自分は自分の課題ときちんと向き合おう。そういう考え方をアドラー心理学では説いている。

この考え方はとても建設的だと思って、これまでのぼくは「課題の分離」を常に意識してきた。「これはあなたの課題」「これはぼくの課題」とパキッと整理し、それぞれの課題と向き合っていくことが大切だと考えてきた。

でも、自分の課題と他人の課題の間に、「私たちの課題」という見えない課題も横たわっているのではないか。そして、そこに目を向けることで、関係が更新されていくのではないか。そんなことを最近は考えはじめている。

そして、この「私たちの課題」について考えることは、「公共とは何か」を考えることにもつながっていくように感じる。

例えば、経済問題、社会福祉、安全保障環境など、今の日本社会には様々な課題が山積みとなっている。でも、これからの問題を「政治家の課題」「官僚の課題」と線引きをしてしまうと、社会の発展は望めない気がする。

資本主義が広がっていくなかで、様々なものが個人に紐づくものとして扱われるようになった。お金も資産も、特定の誰かの所有物だ。それと同じで、責任の所在についても特定の誰かに紐づけられるようになった。「こうなったのは、誰の責任なのか?」と、様々なところで戦犯探しが行われている。でも、そんなにパキッと割り切れるものなのか?

そうした時代の中で、「間について考える」ことは、社会の公共性について考え直す切り口にもなるのではないだろうか。

本として完成するまでには、まだまだ時間かかりそうだが、すごく取り組みがいのあるテーマだと感じている。


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