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自分のポジションを手放す、大切さと難しさ

どうやって編集者が育つ組織をつくりあげていくか?

新年投稿した『コルクで実現したい、編集者集団の在り方』というnoteにも書いたが、コルクの経営者として、いま最も力を入れていきたいテーマだ。

人は環境によって育てられる。環境が変わると、環境から受け取る影響によって、それぞれの行動が変わる。「コルクらしさ」が発酵されるような環境とは何か。その発酵がうまく進むような仕組みとは何か。

それを考えるだけでなく、幾つかの仮説を実行に移し、実験と検証を進めていく。それが、今年やり切りたいことのひとつだ。

一方、人間は何かに飲めり込むと、それに執着する心が生まれてくる。会社づくりにおいても同様で、「会社のため」と言いながら、場に執着するような状態になってはいけない。そんな風に思わせられた作品がある。

それが『メディア王 〜華麗なる一族(原題: Succession)』だ。

『ゲーム・オブ・スローンズ』や『セックス・アンド・ザ・シティ』などで知られるHBOオリジナルドラマ作品のひとつで、2023年にファイナルシーズンとなるシーズン4が放送された。エミー賞で様々な賞を受賞するなど、HBOの代表作のひとつとして広く評価されている作品だ。

この作品は、タイトルの通り、世界的なメディア企業を経営する主人公とその一族の愛憎や争いを描いたドラマだ。

一族の家長であるローガンは、スコットランドの極貧の家庭の生まれで、アメリカへの移民だ。そんな彼がたったの一代で、多数のメディア・娯楽企業からなるコングロマリットな世界企業を築く。
ローガンのモデルは、ルパート・マードックだと思われる。

老いたローガンは健康問題を抱えいて、彼の子どもたちはローガン引退後の将来について考え始める。ローガンが持つ巨大な権力や地位を誰が手にするのか。その後継者争いがドラマの軸となる。

ドラマを見はじめた当初は、ローガンの子どもたちの強欲さと保身が際立っているため、彼らのことがなかなか好きになれない。
でも、ドラマが進んでいくと、どの人物も自分の弱さと闘いながら、その人なりに勇気を振り絞って、必死に生きていることが伝わってくる。
そして、だんだんと彼らに共感できるようになってくる。

一方、ローガンは老いてなお獅子といった人物で、ものすごい威圧感や迫力をもっていると同時に、子どもたちへの愛情ももっている。ただ、自分の築いてきた巨大な地位や権力を失うことに恐怖をもっていて、子どもたちへの愛情との間で、ものすごく揺らいでいる。
だから、子どもたちを近寄らせては突き放し、おだてては突き落とすような行為を繰り返してしまう。そして、どんどん孤独になっていく。

こうした救いがない物語をドキュメンタリータッチでリアルに描いていて、こういう風に人間の姿を浮かび上がらせるのかと、アメリカのドラマの奥深さをすごく感じさせられた。醜さも含めて人間讃歌になっていて、ぼくが理想とする創作スタイルだった。

このドラマを見て感じるのは、自分のポジションを手放すことの大切さと、その難しさだ。

この『メディア王』では、ローガンが場を空けないことで、周りの人がどんどん不幸になっていく様子が描かれている。組織づくりとは、役割を交代するルールづくりとセットでやっていかないと、自他ともに悲惨なことになりかねない。

先日、鈴木おさむさんが『仕事の辞め方』という本を出した。
その中で「自分がいなきゃダメだって思っていたけど、そうでもなかった」ということが書かれていた。そして、ポジションをあえてあけることで、焦りや危機感が生まれ、チーム力が上がり、以前よりも力強くなることも。

創業経営者の場合、「会社のことを一番わかっているのは自分だ」「誰よりも会社のことを考えてきた」と思い込みやすい。でも、それこそが認識の囚われで、そのことに意識的にならないといけない。

これは経営者だけの話ではなく、事業部長やマネージャーでも同様だ。成功体験がたまっていくと、特定の人がそのポジションにずっとついて、次の人にポジションを渡さないケースがよくある。そうなると、人材が育たなくなったりして、だんだんと組織力が低下していく。

組織内で新陳代謝を起こしていくために、それぞれが現在のポジションに固執せずに、新しいことに挑戦していく。
そうした文化を作っていくには、どうすればいいか。コルクの組織づくりにおいて、そのことをしっかりと考えていかないといけないと感じた。

でも、これは言うは易しで、来るべき時が来たら、自分はスムーズにポジションを手放させるだろうかと思う気持ちもある。

講談社を退社した時は、それまでに社内で築いたポジションを手放すことに躊躇はなかった。会社から与えてくれたもので、用意してもらってた。
でも、自分がゼロから作った会社となると、同じようにできるのだろうか。今の日本の社会環境の産物ではあるが、「ぼくが生み出した」というエゴは確実にある。
うまく手放すことのできないローガンの姿を見て、どこか共感できる感情があるのも事実だ。

もしかしたら、固執する感情が湧いてくるかもしれない。もしくは、自分は固執しているつもりはなくても、結果的に固執してしまっているかもしれない。そうならないようにするために、どういう準備が必要なのか。そうしたことも考えていくと、自然と経営をしてることになるのだろうと思った。


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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