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怒りの矛先が向けられた時、自分の器が問われる

怒りとは、自分の甘えに気づくためのチャンスだ。

怒りが湧いてきたとき、その感情を無理に押し殺す必要はない。思い切り心の中で怒ってみる。そして、少し距離を置いて、自分を冷静に見つめる。

たとえば、他人が自分の指示通りに動かず、苛立ちを覚えることがあるかもしれない。でも、それはうまく指示が出せなかった自分にも責任があることが多い。その怒りは、他人に期待し、自分に甘えている証拠だ。

相手に怒りをぶつければ、一時的に感情は和らぐかもしれないが、それで根本が解決するわけではない。このことに気づいてから、怒りを人に向けるのをやめるようと努めてきた。

ある種、怒りの感情とは、自分の器を測るための装置とも言えるだろう。

そんな風に感じているぼくだが、先日、怒りの感情が珍しく燃え上がる出来事があった。

福岡と東京で二拠点生活をしている中で、東京ではマンションを借りている。ある朝、そのマンションの管理人さんからインターホン越しに連絡があり、「駐車料金を払っていないのに、自転車を駐輪場に勝手に置くのはやめてください」と激しい口調で言われた。

自転車なんて置いていませんと答えると、「そんな口答えはいいから、とにかく今すぐやめてください」とさらに強い調子で返されるのだった。

実際、ぼくは自転車を持っていない。だが、そのことを伝えても、まったく聞く耳を持たず、僕が犯人だと決めつけてくる。やりとりをしているうちに、さすがに堪忍袋の緒が切れ、「このままでは話が進まないから、管理会社に連絡して、白黒つけてもらいましょう」という展開にまでなった。

なぜ管理人さんがぼくを犯人だと決めつけていたのかというと、マンションの各所に設置されたカメラで、自転車を置いた人物がぼくの部屋のある階やその付近に向かったのが確認されたらしいのだ。

ところが、蓋を開けてみると、ぼくの部屋の隣に住む女性の彼氏が自転車を置いていたことがわかった。彼女も彼氏が勝手に自転車を置いていることを知っていながら、「たまにしか来ないし、まぁいいか」と見過ごしていたらしい。管理人さんに指摘されると、すぐに謝ったとのことだった。

最終的に、管理人さんから深く謝罪を受けた。その申し訳なさそうな姿を見ているうちに、燃え上がっていた怒りもすっと消えていった。

管理人さんの話を聞くと、駐車やゴミ出しのルールを守らない人が多く、厳しく取り締まるよう指示されていたらしい。特にゴミ出しのルールが守られないことが多く、そのために管理人さんが分別を担うことも少なくないようだ。管理人さんの話を聞いていると、マンションの管理人という仕事の気苦労が伝わってきて、やるせない気持ちになった。

振り返ってみると、最初に管理人さんが怒鳴り込んできたとき、もう少し冷静に対応できていれば良かったと感じる。

怒りの感情と付き合う上で難しいのは、感情は伝播することだ。感情とは、まるで波紋のように、他人に影響を与えながら広がっていく。

誰かにぶつけられた怒りは、受け取った側にも苛立ちや不快感を引き起こし、その人がまた別の誰かに感情をぶつけてしまうこともある。こうして、感情の負の連鎖が生まれてしまう。

平野啓一郎の『富士山』に収録されているストレスリレーは、まさにそんな話だ。ストレスリレーを止める人になりたいと読んだ時に思ったのに、そんなにうまく対処できなかった。

相手の怒りの矛先が自分に向けられた瞬間、それを食い止めるのは簡単ではない。防衛本能が働き、ついこちらも身構えてしまう。

だからこそ、そんなときに怒りの感情をうまく受け流せる人こそが、本当の意味で器の大きい人なのだろう。管理人さんの怒りの感情を、次にリレーすることはなかったけど、管理人さんの感情はしんどいままだっただろう。もっと、そこで怒りが溶けるような対応をしたかった。

今回のケースほどではないにせよ、今後も些細な誤解や行き違いから、突然怒りの矛先が自分に向けられることがあるかもしれない。

そんなときには、自分の器が試されるいい機会だと捉え、穏やかな気持ちで受け止めていきたい。


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