キャプテン書影

部活は毎年『Zero to One』。スタートアップ経営者はビジネス本を捨てて、『キャプテン』からリーダーシップを学べ!!

本は、鏡だ。
読みながら自然と浮かび上がってくる感想は、自分の心の状況を教えてくれる。『キャプテン』という作品に没頭しながら、僕は、僕自身について学んでいた。

ちばあきおの『キャプテン』は、スポーツマンガの名作中の名作だ。
最近のマンガと比べると、絵があっさりしているかもしれない。しかし、水墨画のように洗練されて極限までシンプルにした絵で、誰にでも描けるものではない。一コマを選び取ってみて見ると、シンプルな線ながら、その選手の骨格、動きの俊敏さ、力強さが、全部、絵から伝わってくる。そして、一人、一人の選手がしっかり描き分けられている。時代の流行を追いかけた絵ではなく、本当にうまい絵だから、このマンガは、さらに100年後に人が読んでも、絵が古びているとは感じないだろう。
話もいたってシンプル。弱小野球部が、キャプテンの力によって強くなる。そんな王道スポ根野球マンガだ。

僕が『キャプテン』を読むのは、都合、4、5回目になるかと思う。何度読んでも、その度に途中でやめる事ができなくなる最高のマンガだ。
そして、今回、読み直しながら僕は、今までとは全く違う感想をもった。これはマネージメントについて学ぶ、最高の1冊だと。

マンガのタイトルは、主人公の名前を使っていることが多い。『あしたのジョー』『はじめの一歩』『キャプテン翼』などなど。しかし、『キャプテン』は違う。主人公は、人ではなく、役職なのだ。人物に焦点を当てている訳ではないから、絵でも、ほとんど人物のアップがない。常に引いた絵で、全体像がわかる中でキャラクターが描かれている。
谷口という最高のキャプテンを描いて、そのキャラを読者に大好きにさせた後、作者は、谷口をあっさり出さなくしてしまう。部活だから、キャプテンは卒業していってしまう。

「立場は人を造る」という。キャプテンは、前のキャプテンに指名されてなる。指名された人間は、なぜ、自分が指名されたのかはわからない。谷口は、野球が下手だった。なのに、キャプテンに任命されてしまった。谷口は部員を鍛えながら、家に帰っては密かに練習する。谷口が頑張るのは、谷口だからではない。キャプテンだからだ。
谷口の次は、丸井。丸井の次は、イガラシがキャプテンとなる。3人とも違う性格だから、もちろん違う壁にぶつかる。しかし、3人とも成長していく。キャプテンという立場が、人を成長させる。


僕は2年前に、会社をやめて、自分でコルクという作家エージェント会社を起業した。この2年で僕は、全くの別人になるぐらい大きく成長した、と自分では思っている。他人は、僕が自分の力で成長していると思うかもしれない。でも、自分の力ではなく、立場のおかげ、時代のおかげでしかないと、僕自身は感じている。創業社長という立場が、僕自身に色々な気持ちを抱かせ、僕を成長させてくれる。もしも、起業ではなく、転職という選択肢を選んでいたら、僕の思考法は全く違ったものになっていただろう。

2代目のキャプテン丸井と後輩のイガラシが、こんなやりとりをするところがある。

「キャプテン なんだいまのザマは!! あれが人の上に立つ者の態度か!! しかってんじゃない。あれはおこってんじゃないか。頭にきているんじゃないか」

「そうよ。頭にきてなにがわるい。おれは仏さまじゃねえ!!」

昔は丸井のキャラクターを伝える描写だと思って、さらっと読んでいたところが、今の僕には、深く刺さる。平易な、日常的なやりとりで、すごく大事なことが書かれている。

はたして僕は、ちゃんと叱れているだろうか。会社での僕の様子を描いたマンガを思わず読み返してしまう……。

『今日のコルク 〜新人マンガ家のスケッチブック〜』#130

キャプテンの中には、僕がなりたい理想のリーダーの姿が描かれている。だから、今回、読み直しながら、僕は学ぶところがたくさんあると思い、深く感じ入りながら、じっくり読んだ。

そして、様々な読み方を許容する奥深さを『キャプテン』という作品に感じた。

ちなみに、ちばあきおさんとちばてつやさんとマンガ原作者の七三太朗さんは、兄弟である。そのこと自体も、人の才能は、個々の能力だけなく、立場や状況によってつくられることを表しているように思える。

キャプテン』を楽しんだ人には、谷口の高校時代を描いた『プレイボール』も未完だがお勧め。
また、三田紀房の『クロカン』『砂の栄冠』もお勧めだ。

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