編集者が育つ場づくりのため、アンラーンすべき視点
コルクは8月末が年度末だ。この時期になると、経営者としての自分のあり方を自然と改めて振り返る。
「早く行くなら一人で行け。遠くへ行くならみんなで行け」
このアフリカのことわざを、コルクのメンバーには共有してきた。創業時から、コルクはプロフェッショナルな編集者集団でありたいと思ってきた。一人ひとりの編集者が個性を発揮し、ぼく一人では想像もつかなかったような面白い企画が続々と生まれるようなチームだ。
では、どうやったら、そんなチームが生まれるのか?
創業したての頃は、経営者である自分が見本になることが重要と考えていた。仕事を数多くこなし、結果を出していく。リーダーとして背中を見せることで、みんなを引っ張っていこうと考えていた。
だが、『創業から10年。目指す経営者像が全く変わった』というnoteにも詳しく書いたが、このやり方は自分のコピーロボットを大量に作ろうとしているようなものだ。このやり方では、遠くへは行けないことに気がついた。
「編集者が育つ場づくり」
今年頭に投稿した『コルクで実現したい、編集者集団の在り方』というnoteに詳しく書いたが、現在、経営者として最も力を入れて取り組んでいるのがこのテーマだ。
ぼくは来年開講予定の『ZEN大学』というオンライン大学で、マンガ産業史という講義を担当させてもらっている。この講義の内容を作成するにあたり、様々な出版社の人たちから話を聞かせてもらう機会を得た。
その中で感じたのは、大手出版社の編集部は編集者が育つ場づくりがしっかりと根付いていることだ。ジャンプにしても、マガジンにしても、新人編集者がやるべきことは明確だ。与えられた課題を達成するために切磋琢磨していくうちに、編集者としてのスキルが自然と磨かれていく。
ぼく自身のキャリアを振り返っても、講談社のモーニング編集部に新人として配属された時、やるべきことは明確だった。
モーニング読者に受け入れられるヒット作品を生み出すことで、雑誌に貢献すること。そのために、過去のモーニングの名作を読み漁ったり、脚本術を勉強したりして、おもしろい作品の要素とは何かを徹底的に研究した。
また、新人編集者が配属されると、先輩編集者と一緒に、大御所マンガ家の連載を担当することになる。そうやって、タッグになって動くことで、編集者としての立ち振る舞い方を自然と学んでいくことになる。
だから、マニュアル的に「編集者はこうあるべし」といった教えはないけれど、編集部内の全員が「編集者はこうあるべし」といった考えを持つようになる。それぞれの編集者で多少の違いはあれども、共通する部分もあり、それがその編集部らしさになっていく。
話を聞いていくと、うまくいっている編集部の編集長は、「編集者はこうあるべし」といったメッセージを大々的に発信したりしていない。それよりも仕組みづくりをしっかりと整えていて、その仕組みのうえで部員同士が切磋琢磨すると、編集者が勝手に育つようになっている。
講談社で働いていた頃のぼくは、このことに全く気づいていなかった。講談社やモーニング編集部のおかげで、編集者として成長できたと感じていたが、その土台にどんな仕組みが存在していたかに目を向けていなかった。
環境が人をつくる。そのことを理解していたつもりだが、自分の置かれている業界のことになると、そのことをつい忘れてしまう。各自の努力が、その人を成長させていると思い込んでしまう。成功している人の努力を過小評価するつもりは毛頭ないが、その前提に目を向けないといけない。
編集者が育つ場づくりをしっかりと進めるには、いち編集者としての視点ではなく、編集長的な視点をもっと身につけないといけない。様々な出版社の編集長と話をするなかで、そのことを特に痛感した。
いま思うと、ぼくは「いち編集者」としての成功体験に囚われていたように感じる。そして、その視点のまま、経営者として「編集者が育つ場づくり」に取り掛かってしまっていた。
でも、バックパッカーとして一人旅をするのと、数十名で団体旅行するのでは、同じ旅でも考え方は全く異なってくる。バッカパッカーとして経験豊富であったとしても、団体旅行の幹事を任されたら、全く違う視点で旅行と向き合っていかないといけないだろう。
「早く行くなら一人で行け。遠くへ行くならみんなで行け」
コルクでやろうとしているのは団体旅行だ。プロフェッショナルな編集者集団という団体で、遥か遠くに行ってみたい。そのためには、バックパッカー的な視点で組織を経営してはいけない。
いち編集者としての視点をアンラーンし、編集長的な視点をどう育み、形に落としていくか。それが経営者として、ぼくが向き合っていかないといけない課題だと感じている。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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