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”憧れ”ではなく、”参加”を生む物語を

映像の20世紀から、ネットワークの21世紀へ。

情報技術の発展で、「他人の物語」から「自分の物語」へと価値が移行したことをを、宇野さんは『遅いインターネット』で指摘している。

僕も、10年前と今では、コンテンツをつくる際の考え方が随分変わった。

『宇宙兄弟』の連載開始時、小山さんに期待していたのは、とにかく深い人間描写だった。読者が主人公たちの物語を追いたくなる。そんなキャラクターを描くことができれば、作品は世の中に受け入れられる。その結果、生まれたのがムッタでありヒビトだった。

もちろん今でも人間描写が重要なのは変わりない。だが、それだけでは「他人の物語」の領域から抜け出すことはできない。

では、どうしたら「自分の物語」へと結びつくコンテンツとなるのか?

それは、物語に読者が「参加」できる要素を加えることだ。

音楽を例にするとわかりやすいかもしれない。近年ヒットしている楽曲の多くは、その曲で誰でもマネできるダンスを踊れたり、そのダンス動画をSNSにアップしたりと、その楽曲を媒介に「参加」できるものばかりだ。もともと音楽はカラオケで歌うなど、参加の要素の強いものだったが、その色合いが濃くなっている。コンテンツは、「参加」へのチケットととも言えるし、言い訳にもなっている。

SNSで人気のインフルエンサーを見ても同様だ。うまい人、すごい人がインフルエンサーになるのではない。

Instagramで「インスタ映え」する投稿を続けるだけでは、フォロワーを増えない。料理でも、メイクでも、ファッションでも、人気を集めているインフルエンサーの多くは、フォロワーが投稿された写真を見て「自分もそれをマネてみたい」と思える人たちだ。

これまでの時代、素人では簡単にマネのできないクオリティを届けることが「プロ」と呼ばれ、尊敬されてきた。だが今は、素人でも簡単にマネができ、自分の物語を充実したものにするためのネタを提供する人が、親しみを持たれ、人気になる。

現在は、ただ質が高いものを提供しても、勝てない時代だ。

考えてみたら、主人公のセリフやポーズをマネしたり、キャラクターを落書きできるマンガが、昔から人気だった。子供が好きになるには、参加の要素がないといけない。「かめはめ波」や「お前はすでに死んでいる」など、人気作には必ずと読者の記憶に残り、思わずマネたくなる要素が含まれている。

マンガが大人のものになり、そのような要素が少ないマンガもヒットしだした。僕は青年誌の担当だったので、マネをしたくなる要素を作品に入れ込むよりも、人間描写の深さ、物語の複雑さのほうを優先に編集をしていた。

『ドラゴン桜』というと、「バカとブスは東大に行け」というセリフを覚えている人が多い。実はこれは、マンガにはない。阿部寛さんによるドラマ版のセリフだ。このセリフは、ドラゴン桜を世間に広めるのに大きく貢献した。

マンガをどのようにして、「他人の物語」から「自分の物語」にするのか。プラットホームの変化もあるだろう。facebookやTwitterは、いいねのあり方を変えることで、情報への参加の具合を調整している。でも、マンガの内容自体も緩やかに変化していく必要がある。

読者が声に出したくなる印象的なセリフはあるか?マネしたくなるポーズはあるか?キャラクターを描いてみたくなる絵になっているか?

今まではチェックポイントとして優先順位が低かったことが、高くなってきている。新人マンガ家と一緒に作っている作品は、読者がゆるくでも参加できるかどうかを強く意識している。

コルクは「物語の力で、一人一人の世界を変える」をミッションに掲げている。このミッションを作った時、「自分の物語」という概念に対して意識的ではなかったが、他人の物語から自分の物語へと移行している時代にふさわしいミッションになっていると思う。

ドラゴン桜2は、1とどこかが違うのか? 1は情報が主体だった。一方、2は、スタディサプリやミンチャレなどすぐに使えるアプリが推薦され、Twitterを使ったり、YouTubeを使ったり、読者がすぐにやってみれる勉強法が紹介される。

また、今回のテーマについて、Youtubeでも話をしてみた。コチラも観てもらえると嬉しい(チャンネル登録、コメントも大歓迎!)。

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