創作者としての進路を、二代前に遡って求める
「自分も作品も二代前を遡り、進路を求める」
先週のnote『世界観を変える物語を、生み続けるための指針』では、コルクが創作において守るべき指針として、「コルク創作6箇条」を作ったことを書いた。
そのうちのひとつが上に書いたものだが、色々な意味やメッセージが含まれすぎていて、簡単に理解することが難しいかもしれない。そう考えて、この言葉に込めたものを噛み砕いて書いてみる。
まず、創作において必ず必要になるものは、自らの「指針」だ。
新人作家にとって、プロとして十分に稼げる状態を目指すのは最初のゴールだ。だが、憧れのプロの創作者になったにも関わらず、「イメージしていたものと違う」「どこか、しっくりとこない」と感じて、作家をやめていく人も数多くいる。
憧れの職業につけたのに、満足できない自分が悪いのだろうか?自己否定のサイクルに入り、精神的に辛くなる人も多い。
創作者にとって、プロになることはゴールではない。ヒットを生み出すこともゴールではない。「なりたい自分」になることがゴールだ。そのなりたい自分の解像度が低いから、次の一歩が踏み出せず、苦しくなる。
「自分はどういう作家になりたいのか?」
「どんな作品を世の中に届けていきたいのか?」
こうした問いへの解像度を高めていき、作家の進むべき道を明確にしていく。そのサポートをしていくことが、コルクの編集者のあり方であり、自分たちはどの方角を向いて創作をしているのかを常に意識していてほしい。
自分の描きたいことが明確だと、技術が足りなくても、読者は楽しんでくれる。自分の技術が低いのも悔しくなって、技術の習得も早い。進路を明確にすることは、作家の成長のためにも最も重要なことでもある。
では、どういう風に指針を定めていくといいのか?
そこで大切にしてほしいのが、この「自分も作品も二代前を遡り、進路を求める」という言葉だ。
そもそも、自分はなぜ創作したいと思ったのか。おそらく、何かしらの作品や作家に強い影響を受けて、「自分もこんな作品を描いてみたい」「こういう作家になりたい」と思ったことが原体験にあるはずだ。完全にまっさらな状態から、「創作がしたい」と急に思うなんてことは起こり得ない。
とはいえ、この「自分もこんな作品を描いてみたい」といったものが、そのまま指針として適切かというと、そうではない。それでは、影響を受けた対象と似たようなものが生まれてしまうだけだ。ぼくらが目指しているのは、二番煎じのような作品ではない。
ここで極めて重要となってくるのが、以前にもnoteで書いたこの考え方だ。
「先人そのものではなく、先人の見ていた“対象”を見る」
以前、石川善樹からこんな話を聞いた。
彫刻家の外尾悦郎さんという方がいる。外尾さんは、200人以上の建築家や彫刻家が関わっているサグラダ・ファミリアの建築において、重要な仕事を任されていた存在で、アントニオ・ガウディの意志を最も深く受け継いでいると言われている。
外尾さんがガウディのことを一生懸命に研究しても、ガウディが何を考えていたかわからなかったそうだ。それよりも、ガウディが見ていた対象を追っていくことで、彼のやりたかったことが何かを考えることができるようになったらしい。ガウディは、自然を建築で再現しようと挑戦していたのだ。
こうしたアプローチは、創作においても重要だ。
多くの物語創作論の本を書いている大塚英志さんと話をする機会があり、大塚さんが大学でマンガの講義をしていた際の講義内容を聞かせてもらった。
その講義では、生徒は自分が尊敬するマンガ家をひとり決める。そして、そのマンガ家のインタビューを読み漁り、その作家に影響を与えた作家を10人程度調べる。次に、その影響を与えた作家の作品を読み込んでいく。
すると、自分の尊敬しているマンガ家の作品を改めて読んだ時に、受け取れるものが全く変わる。その作品が、その作家が触れてきたものによって出来ていたことに気づくのだ。
先人そのものでなく、先人が見ていた対象を見ることで、同じ方向を向く。そして、先人の考えを深く理解する。一世代ではなく、二世代前に遡ることで、一世代前のことが理解できる。
その段階まできたら、「自分もこんな作品を描いてみたい」と思っていたものへの見え方が随分と変わってくるだろう。そして、それを現在という時代にあわせてアップデートするなら、どんな形になるかを考えていくことで、オリジナルなものへと昇華されていくはずだ。
こうした考えに至った背景には、「受け継ぐ」「引き継ぐ」という考え方を大切にしたいと思っている側面もある。
以前のぼくは「全く新しいオリジナルなものを生み出そう」と躍起になっていた。でも現在では、「先人たちから受け継いだものを大切にしながら、時代にあわせたアップデートを施して、次の世代へと引き継いでいきたい」と思うようになっている。
自分ひとりの力で、成り立っていることなんて何もない。先人たちからの影響で自分は成り立っていて、その繋がりはどこまでも続いていく。何世代も前から受け継がれてきたバトンが、自分たちに渡ってきたのだ。バトンという言葉を、贈与という言葉に置き換えてもいい。
そう考えると、有難いという感謝の想いが自然と芽生える。そして、自分も、次の世代にバトンを引き継ぎたいと思える。創作は殺伐としたものではなく、豊かで楽しいものだと感じられるのではないだろうか。
魂を削らずに、磨いてこそ、創作だと最近は考えている。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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