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「学校どうだった?」と、子どもに聞いてはいけない理由

問いを相手に投げかけることで、思考の整理を助け、自分で気づきを得るための鏡となる。それが、ぼくが編集者として目指している姿だ。

問いを投げかけるうえで重要なのは、タイミングだ。その問いを相手が受け入れる準備ができていない時に、問いを投げかけても、思考の整理は進まない。場合によっては、「なぜ、そんな質問を投げかけてくるんだろう」と反発を生む可能性すらある。

じっくりと相手を観察し、自分のペースではなく、相手のペースにあわせる。問いを投げかけるのが上手い人は、タイミングの見極め方が上手い。ある種、自分から動くのを我慢する力があるとも言える。

問いかける力を磨くことが重要だと考えていたが、問いかけないことの重要さに気づく出来事があった。それは息子が通う学校での話だ。

ぼくのnoteで何度か紹介しているが、昨年から次男は「きのくに子どもの村学園」という全寮制の学校に通っている。基本的に、平日は学校の寮に泊まり、週末は自宅に帰ってくる。

この学校に次男が通いはじめた頃、先生たちから「週末にお子さんが自宅に帰ってきても、学校の話は聞かないでください」と言われた。

子どもとは、たくさんコミュニケーションをとりたい。ただ、自分から話し出すことがうまくできないから、こちらがうまく質問してあげる方がいい。それに平日は寮にいて、どんな様子かわからないから、聞きたいことはたくさんある。それを禁じるアドバイスなので、その言葉をの意味をうまく飲み込めないでいた。もしや、学校の様子を知られたくないとか、先生たちは、自信がないのかなと、いろいろ想像した。

腑に落ちていないから、先生たちのアドバイスを守るのは難しかった。先生たちからの言葉が脳裏に浮かびながらも、子どもが家に帰ってくると、ついいろんなことを聞いてしまったりしていた。

特に、以前に投稿した『もう死にたいという気持ちの裏側』にも書いたが、次男は「学校に行きたくない」と今年になって言い出した。そうなると、学校についての会話は避けて通れない。なんで行けないのか、どうすれば行けるのかが知りたいし、次週の予定を立てるために、どれくらいの行けるのかは知っておきたい。でもそれで次男と話すたびに、「学校のことを聞いてはいけないと言われているんだよなぁ」と思う自分がいた。

なぜ、学校について聞いてはいけないのか。その理由を先生たちから教えられてはいない。だが、教育に長く関わるなかで、親が学校について聞きすぎると、子どもにとって良くないことを経験則として知っているのだろう。

聞いてはいけない理由について、自分なりに何度も考えてきたのだが、その理由が最近になって見えてきた。

子どもにとって、学校にいる時の分人と、親と一緒にいる時の分人は違う。親と一緒にいる時の分人は、甘えたかったり、かまってもらいたいという感情があるので、親の気を引くようなことを言おうとしてしまう。すると、学校にいる時の分人では感じていなかったような感情を捏造してしまう。ここが辛いとか、ここが大変とか。

厄介なのは、親と一緒にいる時の分人が発した言葉によって、感情全体が支配されてしまうことだ。捏造された感情を言葉にしているうちに、それが本当の感情のように感じられて、学校が苦しいもののように思えてくる。そんなに悪いと思っていなかったのに、「実はそうだったんじゃないか」と自分で自分を洗脳しているような状態だ。

だから、子ども自身が自ら話したいと思うようになるまで、こちらから聞かないほうがいい。話をはじめた後も、深堀りする質問を投げかけるのではなく、傾聴しながら子どもの話を促す。

問いはタイミングが重要と感じていたが、この分人という視点で、問いについて考えたことはなかった。自分という存在が、相手の自分向けの分人を無意識のうちに引き出しているという事実を、あまり意識していなかった。

例えば、「最近、仕事どう?」と誰かに聞いた時に、それは自分向けの分人として答えている内容であって、その人が仕事について本当に感じていることではないかもしれない。

特に、「こういう風に扱われたい」「こういう風に自分のことを思ってほしい」と感じる相手向けの分人であれば、感情の捏造が起きやすい。これは家族間や男女間でもそうだし、上司部下でも起きやすいのではないだろうか。

自分が相手に与える影響の大きさ。そのことを自覚しながら、問いを投げかけていかないと、相手の思考を整理するどころか、相手の感情を間違った方向に導いてしまう可能性がある。

子育ても編集も、人と向き合う仕事。人と向き合うことの奥深さを感じた。


今週も読んでくれて、ありがとう!この先の有料部分では「最近読んだ本などの感想」と「僕の日記」をシェア。日記には、どんな人と会い、どんな体験をし、そこで何を感じたかを書いています。子育てをするなかで感じた苦労や発見など、かなり個人的な話もあります。

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