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打ち負かすのではなく、調和の道を探るとは何か

今さら語らずとも、みんな知ってることだと思うのだが、歴史は学びの宝庫だ。歴史上の人物たちが、どのような葛藤を抱え、それにどのように立ち向かい、どのように生きたのか。

マンデラは、刑務所の中で白人のことをどう思ったのか。
利休は、どんなことを思いながら切腹したのか。
持統天皇は、どんな日本の姿を想像したのか。

こうした「問い」は、歴史上の年表や事件をただ覚えるだけだと湧き起こらない。偉人たちの物語を読み、葛藤に共感すると、自分が同じ場所にいたらどんな風に考えるだろうと想像する。

ぼく自身、歴史を描いたマンガや小説は大好きで、みなもと太郎さんの『風雲児たち』シリーズや、里中満智子さんの『天上の虹』、伊東潤の『江戸を造った男』など、好きな作品をあげたらキリがない。そんななかで、深く感動する作品を新しく見つけた。

横山光輝が山岡荘八の原作をマンガにした『徳川家康』だ。

横山光輝の歴史マンガといえば、『三国志』や『水滸伝』が圧倒的に有名で、ぼくも昔から好きな作品だ。ただ、横山作品はebookjapan以外の電子書籍ストアでは販売されておらず、Kindle派であるぼくは、この『徳川家康』は存在も知らなかった。

そうしたなか、今年の大河ドラマが徳川家康を扱っているためか、この『徳川家康』が新たに電子書籍化され、Kindleでの販売が決まった。久しぶりに横山作品に触れたいと読み始めたのだが、どんどん夢中になってしまった。

様々な作品で徳川家康は描かれているが、作品ごとに家康の描き方は変わる。横山版の家康は、幼い頃から戦国時代の苦しみや悲しみを目の当たりにし、平和な世の実現を何よりも望む人物として描かれていく。また、信長も秀吉も同じ想いを抱いているのだが、置かれている環境や時代が異なるため、三者三様に考え方が微妙に異なっていく。

印象深いのが、嫡男の信康を自害させるシーンだ。信康の自害を、信長も家康も本心では望んでいない。だが、平和な世を築くためには致し方なしと、苦渋の決断の末、信康を自害させる。個人の感情と社会全体の幸福を天秤にかけながら、苦渋の決断をしていく姿に思わず涙が溢れる。信長も望んでいたわけではなく、仕方なくそうなっていったという描き方は、新鮮だった。

この作品を読んで、ぼくが家康の偉大さとして強く感じたのは、時代や自分の立場の変化に合わせて、立ち振る舞いを柔軟に変えていったことだ。

群雄割拠の戦国時代において、一介の武将だった頃は、どうやったら生き残れるかを必死に考えていく。それが大名を束ねる立場になると、どうやったら平和な状態が安定的に続いていくかを考えるようになる。

ぼくが特に面白いと思ったのは、家康は戦った相手を完全に処罰するのではなく、相手の才能が活きる環境を用意することだ。自分に逆らったのは、自分が憎いからではなく、相手も生きるためにはそれしか選択肢がなかったのだと認め、相手を活かす手段を考案していくのだ。

打ち負かすことなく、相手と調和する道を探っていく。そんな風に、家康の政治手腕が上手くなっていく姿が実に見事に描かれていく。

同時に、環境や立場が変わる度に「自分の役割をどう変えていけばいいのか」「自分の器をどう大きくしていけばいいのか」と家康は悩んでいて、その悩みのあり方にとても共感する。

ぼく自身、コルクが組織として成長するには、経営者の属人性を排除しないといけないのではないか。だが、組織として成功体験を得るために、経営者である自分が組織をリードしないといけないんじゃないか。そんな葛藤を常に抱えているので、家康の姿に自分を重ねることもあった。

これまで色々な作品で家康について知ったつもりだったけど、ここまで家康の見え方が変わるのかと驚いた。コルクは「物語の力で、一人一人の世界を変える」を企業理念に掲げているが、横山光輝の『徳川家康』は、まさに自分の世界観が変わる物語だ。

この作品を読んでいると江戸時代が平和な状態で250年以上続いたのは、家康というすごい人物がいたからで、奇跡的なことだったのだと感じる。


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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