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学び合いを加速させる、健全なフィードバックの循環

多くの新人マンガ家の育成に関わってきて思うことがある。

それは、成長する人はフィードバックのもらい方が上手いということだ。

自分の足りていない部分を指摘されたとき、それを「ダメ出し」と受け取るのか。それとも「伸び代」と捉えるのか。その違いが、成長のスピードを大きく左右する。これはマンガ家に限らず、どんな分野でも共通する話だ。

一方で、フィードバックは双方向のコミュニケーションであり、与える側の姿勢もまた重要になる。良かれと思って伝えたつもりでも、相手の状況や受け取り方を考慮しなければ、伝わらなかったり、逆効果になったりすることがある。

たとえば、ヨーロッパのサッカークラブでは、コーチが選手を指導する様子をビデオに録画し、後でコーチ陣全体で振り返るという。互いの指導方法を見直し、選手への伝え方を改善するための仕組みが整っているのだ。

どうすれば、フィードバックが健全に機能する環境をつくれるのか。この数年、ずっと考え続けてきた問いだ。

2019年に始めた『コルクマンガ専科』でも、この問いに向き合い、講師やスタッフが試行錯誤を重ねてきた。そして先日、第10期が終了したのだが、フィードバックを通じて、互いに学び合い、成長できる関係性が築かれつつあることを実感した。

マンガ専科では、約半年間のカリキュラムの集大成として、受講生に32ページのストーリーマンガのネーム提出を課している。受講生の中には、すでに商業誌で連載デビューを果たした人もいるが、大半は新人マンガ家だ。SNSに投稿する3〜4ページの短いマンガは描いたことがあっても、32ページもの長さは未経験という人が多い。

マンガを描いたことがない人にはピンとこないかもしれないが、32ページのマンガを描き上げることは、フルマラソンを完走するのに近い。そこでマンガ専科では、ステップごとに課題を設けながら、受講生が着実にゴールへと向かえるようサポートしている。

先日終了した第10期では、最終課題の提出率が過去最高を記録した。さらに驚くべきは、そのクオリティの高さだ。提出された作品の中には、出版社が主催する新人賞で受賞を狙えるレベルのものがいくつもあった。

マンガ専科では、第一回の講義で毎回伝えていることがある。

それは、「水をすくうのではなく、水を交換する」という考え方だ。

コミュニティにこれまで蓄積されてきた知識を、大きな樽に溜まった水に例えるとしよう。参加費を払ったからといって、空のコップを持ち込み、樽から水をすくって持ち帰るような意識で参加してはいけない。

そうではなく、全員が自分の知見を目一杯コップに入れて持ち寄り、それを樽に流し込んで水をかき混ぜる。そして、参加費とは、その交換された新しい水を持ち帰る権利に対して支払うものだ。

ぼくら講師も、これまでの経験をもとに、受講生に対してできる限りのフィードバックを与えていく。同時に、受講生同士もお互いの作品にフィードバックをし合いながら学びを深めていく。そうした「水の交換」が活発に行われることで、学びが深まり、成長が加速するのだ。

まさに今、マンガ専科ではそれが実現しつつある。受講生同士で自主的にフィードバックをし合うグループが生まれ、他者からのフィードバックを自らの成長の糧に変えようとする動きがますます強まっている。

ぼくら自身も、受講生からのフィードバックをもとに、カリキュラムの内容やサポート体制を改善し続けてきた。マンガ専科を立ち上げてから約5年。試行錯誤を重ねるなかで、理想に近い形へと進化してきた実感がある。

そして、3月から『コルクマンガ専科』の第11期が始まる。今回は、どんな学び合いが生まれるのか。今からとても楽しみだ。

現在、マンガ専科では第11期の受講生を募集中。興味がある人は、以下のWebサイトに詳細が載っているので、ぜひチェックしてみてほしい。マンガ家として成長したいという意欲さえあれば、どんな人でも大歓迎だ。


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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