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ヨガやサウナと全く同じ!? YAMAP春山慶彦さんに聞く登山のマインドフルネス効果

近年、僕はヨガサウナにかなりハマっている。

体を動かすことや、サウナから出た後の水風呂が、純粋に気持ちいいこともあるが、この2つの習慣のいいところは、自分の心の声に気づけることだ。僕にとってヨガとサウナは、心身を観察し、自分を整える重要なスイッチだ。

そして、登山もまた、ヨガやサウナと同じような効果があると言う。

そう語るのは、190万ダウンロード突破し、国内シェアNo.1の登山GPSアプリ『YAMAP』を提供するヤマップ代表の春山慶彦さん

登山はハマる人が多い一方で、道具や専門知識の必要性から、趣味として敬遠する人も多いのが実情だろう。僕も学生時代から自然は好きだが、これまで山には足が向かなかった。そんな登山の現状を変えていくことを目指して生まれたのがYAMAPで、春山さんから「YAMAPや登山の魅力をマンガで伝えたい」と相談をもらったことがきっかけで、春山さんと親しくなった。

先日、僕のYoutubeチャンネルで春山さんに登山の知られざる魅力を聞く対談を行ったのだが、その内容をコルクラボのメンバーがレポート記事を作成してくれたので、共有します。

<記事の書き手 = わたぬきみき、編集協力 = 井手桂司

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春山慶彦(はるやまよしひこ)
1980年福岡県生まれ。同志社大学卒業後、アラスカ大学留学。帰国後、株式会社ユーラシア旅行社『風の旅人』編集部に勤務。その後フリーランスを経て2011年5月にYAMAPを着想。2013年にローンチし、株式会社セフリを設立。2015年4月、『BDashCamp2015』のピッチアリーナで優勝。現株式会社ヤマップ代表取締役。

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やりたいことを突き詰めた創業前

佐渡島:
今回の対談に至ったきっかけは、YAMAPや登山の魅力を紹介するマンガの相談をもらったことです。僕もちょうど『コルクラボマンガ専科』でマンガ家の育成をしていて、「お金をもらってマンガを描く」経験を受講生にしてほしいと思っていたので、ありがたいと思いました。

その結果、色んな切り口で魅力を伝えるマンガが集まりましたよね。

▼その他の、コルクラボ専科受講生によるマンガはコチラに。

佐渡島:
登山の魅力やYAMAPについて聞く前に、春山さん個人の話を聞きたいのですが、昔から自然の中で過ごすことが多かったんですか?

春山さん:
僕は高校生の頃までは運動ばかりしてました。

最初に自然に目覚めたのは、19歳の時で、自転車で九州一周する途中に屋久島を訪れたことです。

ある旅館の主人と知り合い、「魚の獲り方や植物の見分け方など、自分が知っていることを教えるから、ここで働いていかんか?」と誘われたんです。その人と海を潜ったり、山に入ったりするうちに、自然の素晴らしさに気づきました。それまでは、こんなにすごい宇宙が傍にあることに全く気づきませんでしたね。

佐渡島:
たしか、アラスカにも行かれていましたよね。

春山さん:
星野道夫さんに憧れて、最初は写真家になるのが夢だったんです。人間の生きる営みとは、他者の生命を取って頂くことだと思ったので、狩猟に興味がありました。狩猟を自分で経験したいし、その様子をきちんと写真に収めたい。それでアラスカへ留学しました。

その後、写真家として生きるならば、当時最高のグラフィック雑誌だと思っていた『風の旅人』に載らなくてはと、アラスカで撮りためた写真を編集部に送っていました。掲載されることはありませんでしたが、編集長と縁ができて、帰国後は風の旅人の編集部で働くことになりました。

佐渡島:
すごい経歴ですね(笑)。春山さんは、自分の中にやりたいことが明確にあるんですね。

春山さん:
でも、自分では軸があるように思うんですが、知人や親からはふらふらしているように見えたようで、「写真家で飯食ってけんの?」とよく言われました。「飯を食うために選んだ職業じゃない」と思いつつも、言い返せなかった自分もいて。

でも、やらなかったら悔いが残るし、「うるさい、自分のことは自分で責任を取る!」とエイヤで行っちゃったのが20代でした。

シェアとコミュニティで登山をアップデート

佐渡島:
では、改めて『YAMAP』について教えてください。

春山さん:
YAMAPは携帯電波が届かない山中でも、自分の位置情報が分かるアプリです。

もともとは、山での遭難事故を無くしたいと思い作りました。

加えて、YAMAPのWEBサイトにある「活動日記」ページにて、ルートや活動時間・距離などの記録情報はもちろん、写真や感想を簡単に共有することができます。地図ごとに情報がまとまっていますので、公開されている他のユーザーの記録を参考にしたり、ユーザー同士で情報交換したりなど、登山・アウトドア計画の準備にも役立ちます。

佐渡島:
単なる位置情報サービスだとGoogle等の大企業にリプレースされそうですけど、コミュニティになっていると参入され辛いですね。

春山さん:
おっしゃる通り、位置情報確認ツールとして勝負していたら、すぐに乗り換えられるサービスだったでしょう。ツールとコミュニティをワンストップで提供したことで情報がどんどん溜まり、ユーザーの利便性へつながっています。既に登山道の情報についてはGoogleよりもYAMAPの方が持っているので、今はそれをどう活用するかが課題ですね。

僕らが保有するデータを国土地理院へ還元し、登山道自体を修正するといった取り組みを始めています。

佐渡島:
ユーザー同士で情報交換して、運営も知らない所でニッチな情報が蓄積されていたりしそうですね。

春山さん
それは頻繁に起きていますね。もともと登山はシェアの文化があるんです。

例えば、釣りの場合だと、釣った魚は皆シェアしますが、釣り場はシェアしたがらないんですよ。登山の場合は、挨拶したり、困っている人がいたら助け合う習慣があって、良い情報、危険箇所や見所などはシェアするもの。そのため、YAMAP上でも写真と共に軌跡・位置情報を合わせた投稿は多いです。

佐渡島:
面白いですね。僕の息子達は、近所にあるクヌギの木を Google Mapでピン止めしておいて、夜にカブトムシとクワガタを取りに行ったりするんですよ。

ネットでそういう細かい情報が見つけられたらいいですよね。細かい情報がストックされて、シェアされて、シェアした人が評価をもらえてという循環の仕掛けがあると面白いですよね。YAMAPはそういう方向性のサービスになっているので、すごく可能性があると思います。

シェアとガイドで登山の魅力は広がる!

佐渡島:
僕は大学時代に探検部に所属していて、カナダ西部からアラスカにかけて流れるユーコン川でカヌーをした経験があるくらい自然が好きなんですが、なぜか山には興味を持ててないんですよね。

一人で行くとしたら高尾山くらいしか思いつかないし、登山を誘ってくれる水先案内人がいない限り、はじめられない趣味だと感じます。

春山さん:
確かに、登山ははじめるまでのハードルが高いですよね。

幼少期に自然体験がある人は、大人になって悩んだ時に「ちょっと山でも行こうか」と選択肢を持てます。経験がない人は、半ば強引に知り合いに連れられて、はじめてそういう世界があると気づく。アンケートを見ても、登山を始めた理由の6割は「友達や知り合いに誘われたから」です。

佐渡島:
あと、道具を揃えるのが大変な印象があります。

春山さん:
実は1,000m以下級の低山など、道具を揃えなくても十分に楽しめる山はたくさんあります。「まずは道具を揃えなきゃ」という先入観が根付いている人が多いので、払拭していきたいですね。

一方で、安易に山へ行って、命を危険に晒すこともやめてほしいです。道具を揃えてから行かないとダメって言う訳でもなく、そのバランスが難しいです。

佐渡島:
ネットが色んなものを滑らかにするのであれば、YAMAP自体が安全を確保するだけでなく、山に登ることの挑戦まで滑らかにするものであるといいですよね。

春山さん:
山の場合、ガイドさんの持つ役割が大きいと思います。山の名前の由来や歴史、植物なんかを組み合わせて山を知ると、山の見方もすごく変わるので。

佐渡島:
山が楽しいというより、「ガイドと登ると楽しい」を広げたらいいかもしれないですね。

春山さん:
ガイドさんを頼む人が少なく、ガイドさんの収入が少ない現状は、登山業界の課題のひとつです。

佐渡島:
やっぱり、登る山の探し方もそうですし、「日帰りか、山小屋に泊まるべきか」など、わからないことが多いのが登山のハードルですね。

春山さん:
特に、山と人のマッチングがないことが大きい課題と考えます。自分に合う山が見つかれば、その山をより楽しく安全に楽しむためのガイドは見つけられるようになっていくはずなので。

佐渡島:
YAMAPは自分の登山の記録は履歴で残せますか?そのログがあれば、「この山に行く人には、こちらの山もオススメです」っとレコメンドができそうですよね。

春山さん:
入った山や歩いた軌跡のデータは溜まっているので、レコメンド機能はゆくゆくつけようと思っています。

ヨガとサウナと登山は、全く同じ!?

佐渡島:
春山さんはアシュタンガヨガをやられますよね。登山とヨガは通づるところがありますか?

春山さん:
呼吸が意識できるようになると、山でも長く歩けるので登山とヨガは相性がいいと思いますね。

アシュタンガヨガは「動く瞑想」と言われていて、動作が決まっている分、自分の意識が内に向きやすくなる。そうるすと身体と外の境界、身体と呼吸の境界が曖昧になる瞬間があるんです。

その効果が、登山にもあります。山を登っていると一歩一歩しか進めない分、色々と思考が巡る。しかし時間が経つと考えることもなくなって、自分と見るものが繋がっているような感覚になるんです。山ならではのマインドフルネス、無私の状態だと思います。

大事な判断をしようと悩んでいる時は、疲れていても山に入って体を動かしたりします。降りてきた後にすっきりして思考がクリアになるんです。

佐渡島:
ランナーズハイみたいな感覚とも近いですか?

春山さん:
近いものもあると思います。ただ都市でランナーをしていると、車に気をつけたり、ノイズが多いんです。自然の中の方が無になれる感じがあります。

山を登って降りて温泉に入って帰ってくると、あくが抜けて本当に体が新しくなった感覚があります。「また行きたいな」とか、「あそこで見た風景の向こうの山並みはどうなっているんだろう」と風景がフラッシュバックする瞬間もあって、この快感は山独自のものですね。

佐渡島:
一方、坐禅のような「動かない瞑想」と登山は感覚が違いますか?

春山さん:
座禅は本当に呼吸に目を向けると思いますが、山登りは風景が変わっていくので禅とは少し違うと思いますね。

佐渡島:
ちなみに純粋な興味なんでずけど、春山さんのような登山好きでも、登る途中で「俺は、なんで登っているんだろう…」とウンザリすることもありますか?

春山さん:
はい(笑)。特に、最初の1時間は都会のあくが抜けきっていないので、無になるまで時間がかかります。それを抜けると気持ちよさに変わっていきます。加えて、高度が高くなると、見える風景も変わって気持ちがいいですね。

佐渡島:
多くの人がヨガをしたり、最近サウナが流行っているのも、マインドフルネスの流れがあるじゃないですか。でも山登りは、あまりマインドフルネスと一緒に語られないですね。

春山さん:
自分なりの分析ですが、世代によって登山に向けられる価値観が違うためだと思います。

50代以上の人たちにとって、登山とは大冒険。植村直己さんに代表されるような、高い山に一人で登るイメージです。一方で20~40代にとって登山は探検という認識は薄い。登山によって自分と向き合う、都市では感じられない自然の息吹を感じる、綺麗な写真を撮りたい、という価値観です。

見方が全然違うので、登山をやっていない人に向けてメッセージを出そうとすると、まとまりづらい部分があります。

佐渡島:
新しい人を惹き込むには、社会全体の興味の方向と合わせて紹介するのが重要ですね。

春山さん:
そうですね。僕らも高い山に登るよりも、身近な山に親しむことが、今必要なことだと思います。マインドフルネスとか、健康とか、3密を避けて遊べる場所として、登山をもっと社会に根付かせていけたらなと思っています。

佐渡島:
ヨガもストレッチ、リラックス目的で行うのと、細かい作法があってしっかり瞑想できるところまでやるのは全然違いますよね。

「こういう風に登ったら、しっかりとマインドフルネスの状態になれる」とか、「この山は、こういうポイントでマインドフルネスになりやすい」とか、教えてもらえるのであれば、すごく興味を持ちます。

春山さん:
ヨガのインストラクターの役割が、登山ではガイドさん。自分に合いそうなガイドさんが分かる仕掛けがあるといいですよね。

佐渡島:
あと、山登りはチームビルディングに良さそうですよね。

春山さん:
そうですね。実は、YAMAPには社内登山制度があって、平日好きな時間に山に行っていいんです。

メンバーと一緒に山に行くと、自然の中の会話って、部屋の中の会話と全く異なるので、その人のオフィスでは見えない表情が見えてきます。人となりがわかると、関係性が膨らむんですね。単に福利厚生の意味合いだけでなく、チーム作りにも活かす狙いで創業当初から続けている制度です。

マンガによって掘り起こされた価値の一面

佐渡島:
最後に、春山さんはコードが全く書けないのに、ゼロからITサービスをはじめたと聞きました。これだけ人が集まったのは、春山さんの魅力ですかね。

春山さん:
どうでしょう(笑)。僕が思うに、僕自身の強みは、雑誌の仕事をしている時に培った「編集力」だと思うんです。イノベーションって、AとBを組み合わせて新しい価値を作ることだと考えているんですが、これって編集ですよね。

YAMAPのイノベーションは、「自然とGPS」、「自然とスマホ」を組み合わせたところにあると思います。「山って、スマホ使えないよね」という先入観を突破したのが組み合わせの妙です。

一方、僕も、YAMAPの中の人になりすぎて、「自分たちのサービスに対して客観的に見えていないのでは…?」と感じることもあります。

だから佐渡島さんに相談して、マンガという表現手段を通じて、登山やYAMAPがどう社会に映るのかを検証したいと思ったんです。

佐渡島:
今回、コルクラボマンガ専科のマンガ家のみんなに登山やYAMAPの魅力を説明するマンガを描いてもらいましたが、切り口が斬新なものが多かったですよね。

例えば、犯罪の証拠が全てYAMAPの履歴に残っているというもの(笑)。

春山さん:
YAMAPの履歴機能の充実性を表してくれているんですけど、普通の広告の打ち合わせでは、こんなアイディアはまず出てこないでしょうね(笑)。

佐渡島:
僕は、こういうマンガ家の持つ発想の柔軟さに魅力を感じるんですよね。こういう企業やサービスの持つ価値を、ある種、マンガ家が編集して表現する取り組みを増やしていきたいと思ってます。

今日はありがとうございました。春山さん、ぜひ一緒に登りに行きましょう!

春山さん:
お誘いします!ありがとうございました。

( 2020年8月12日にオンラインにて収録 )

★この対談は、Youtubeの『編集者 佐渡島チャンネル』にて動画を公開しています。動画で観たい人はコチラから。

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