ライト_マイ_ファイア

あの情熱はどこへいったのか?『ライト マイ ファイア』

伊東潤の新作『ライト マイ ファイア』が毎日新聞出版から発売された。

コルクがどのように関わり、出版社の編集者がどのように関わったのか、を説明するとエージェントと編集者の違いが明らかになるかもしれない。

出版社の担当編集者は、平野さんの『マチネの終わりに』と同じ人で、気心のしれた人だった。とにかく熱意のある人で『ライト マイ ファイア』を面白くするために、すごい量のアドバイスを伊東さんにくれて、書店周りも、取材も、宣伝の対談もセッティングしてくれた。

そういうことをコルクがやるのではないか?と思っている人が多いと思うが、編集者と役割が重なるのなら、わざわざ新しい職業として立ち上げる必要がない。

僕は、ヒット請負人ではない。しっかりと作家の立ち位置を決め、それとずれた行為をしていないかを確認し、著作権を長期的に運用する。ひっとさせるのではなく、ヒットの準備を行うのだ。時間をかけて、ゆっくりとヒットの準備をしておけば、もちろん大ヒットすることもある。ヒットは結果で、目的ではない。目的は、著作権の長期的な運用だ。だから、普段の仕事は、基礎的な、地道なことをじっとやり続けることになる。

伊東さんとは、3年ほど前から打ち合わせをしている。伊東さんとは、どう書くかではなく、なぜ書くのかの打ち合わせをずっとしている。

「なぜ、学生運動の時代をテーマにするのですか?」「なぜ、よど号をモデルにしようと思うのですか?」 ずっとなぜ、なぜを繰り返す。

「今回の作品と今までの作品の共通点は何ですか?」「歴史小説家と思われている人が、なんで昭和を書くのですか?」

作家は直感的に題材を選ぶ。こういう質問をしても、「面白そうと思ったから」としか答えられないことがほとんどだ。でも、何度も聞いているとだんだんとみえてくる。

伊東さんの強みは、歴史への仮説力だ。『修羅の都』では、源頼朝の晩年にたいして大胆な仮説を伊東さんはたてた。(ネタバレになるから言わないけど、かなり説得力がありつつ、盲点なアイディアだった)今回の「よど号に公安がいたのではないか?」という仮説は、伊東さんならではだった。なぜ、この当たり前に思えるアイディアを今まで誰も指摘しなかったのか不思議だ。資料を読み込んで、大胆な仮説をたてれるのが伊東さんの強みだ。書く小説には、それを活かしていこうという大方針を一緒にたてた。

だから、伊東さんが安易に現代小説を書くことに僕は反対だ。学生運動は、もはや資料を読み込む、時代になった。『ライト マイ ファイア』は、歴史小説と同じで、伊東さんの強みがいきるから大方針とずれていない。伊東さんの仮説力が活かせるジャンルなのだ。

もう一つ、伊東さんは、常に情熱を描いている。『国を蹴った男』では、蹴鞠への情熱を描いた。『江戸を造った男』では国づくりに人生をかける商売人河村瑞賢を描いた。情熱の形は、様々だ。でも、毎回、情熱を描いてる。

そんな伊東さんが、学生運動にずっと興味を持ち続けるのは、すごく自然なことだ。あの時の若者達の熱狂、情熱はどこへいってしまったのか? 現代を生きる我々は、なぜあの時代のように情熱を持てないのだろう? 『ライト マイ ファイア』では、そんなテーマを描いている。

仮説力と情熱。その二つが、伊東潤の強みで、『ライト マイ ファイア』では、それが存分に活かされている。今、雑誌で連載している伊東潤の新作『男たちの船出』も『真実の航跡』、仮説力と情熱という軸が大切にされている。

作家の軸を決めて、積み重ねていく。それをサポートして、ヒットのための準備をするのが、エージェントの仕事だ。

『ライト マイ ファイア』のあらすじは、こんな感じだ。伊東潤の魅力を存分に楽しんでほしい。


「よど号」ハイジャック実行犯に公安がいた! 1970年のハイジャックと簡易宿泊所放火事件。警察官・寺島が入手したノートの「1970」「H・J」の意味―― 45年の歳月を経て、過去と現在の2つの事件が結びつく時、
男たちの「正義」を懸けた最後の戦いが始まる。


伊東さんの情熱に溢れ、強面だけど、お茶目なツイッターはこちら。

失われた情熱を歌った歌として真心ブラザーズの『マイバックページ』もおすすめ。

そして、タイトルは、ドアーズの『ライト マイ ファイア』から。音楽を聞きながら、作品を読むと時代の空気をもっと感じることができる。


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