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生き残る組織には、磨き上げられた制約がある

「制約があったほうが、人はクリエイティブになれる。」

このフレーズは、さまざまな場面で語られているが、組織づくりにおいても例外ではない。完全な自由を与えられると、かえって人は動きづらくなるものだ。制約があるからこそ、創意工夫や独自の発想が生まれてくる。

コルクにおいて、編集者を育成する場づくりを進める中で、この「制約」の大切さを改めて感じている。

コルクは作家のエージェント会社として、作家の才能を最大限に輝かせるために、全方位的に活動をしていく。こう言うと聞こえはいいが、新人編集者からすると、具体的に何をすればいいのかが分かりづらい。企画や売り先の選択肢があまりに自由すぎることで、かえって動きづらくなっている。

編集者を成長させ、サポートできる作家を増やしていくためには、現状のままでは難しいと感じることが増えてきた。そんな中、「新人編集者がよりスムーズに動けるようにするために、組織として適切な制約を設ける必要があるのではないか」という議題が、コルクの経営会議で持ち上がった。

この「制約」について考えを巡らせるなかで、ぼくが新人時代に働いていた講談社の雑誌編集部の仕組みが、いかに練りに練られたものだったかを改めて実感している。

まず、多くの編集部で新人編集者に最初に任されるのは、雑誌の最後にある「目次ページ」の作成だ。

雑誌に載っている全作品を必然的に把握できる。そして、マンガ雑誌とはいえ、記事やお知らせといった、マンガ以外のコンテンツも多く掲載されている。目次を担当することで、読者なら読み飛ばしていて意識をあまりしていてない、雑誌全体に必要なコンテンツの構成を理解することができる。また、作者コメントを掲載する際には、各編集者とのやり取りが生まれるため、自然と職場内でのコミュニケーションが深まっていく。

次に任されるのは、「次号予告ページ」の作成。

予告ページでは、主力作品を大々的に打ち出すため、まずはその作品について深く理解する必要がある。どんなキャッチコピーを添えて、次号をより魅力的に見せるかを、主力作品の担当編集者と相談しながら考えていく。とはいえ、次号予告ページが直接的に雑誌の売り上げを大きく左右することは少ないため、比較的自由に企画を進められる部分でもある。

その次に任されるのは、「新人賞」の事務局だ。

事務局の役割として、告知ページや結果発表ページの制作を担当することになる。予算も少し支給されるため、見つけた新人マンガ家に簡単なイラスト仕事を発注することもできる。

こうして、マンガ編集者としての仕事を理解しながら、企画とは何かを少しずつ学んでいく。さらに、先輩編集者と共にベテラン作家の連載作品を担当することで、マンガそのものへの理解も深まっていく。

定期的にヒットを出している他の出版社のマンガ編集部でも、新人編集者に任される役割はほとんど同じだ。与えられた制約の中で、段階的に課題をクリアしていくことで、編集者としてのスキルが自然と磨かれていく。

サンデーとマガジンは60年以上、ジャンプも50年以上の歴史を誇っている。その長い歴史の中で、時代と共に変化をしながら、ヒット作品を世に送り出し続けている根底には、こうした仕組みの存在がある。

編集者が段階的に育っていく仕組みを、コルクのようなエージェンシーで実現するには、どのような方法があるのだろうか?

この問いに明確な答えが見つからない限り、たとえコルクが大きく成長しても、その成長は一時的なものに終わるだろう。属人的な成功に頼るのではなく、組織として持続可能な仕組みを構築する必要がある。

これまでのぼくは、制約を設けることに対してためらいがあった。なぜなら、一度枠を設けてしまうと、その枠を超えた発想が生まれにくくなるのではないかと懸念していたからだ。だから、組織として制約を設けることは避けてきた。

しかし、まずは制約の中で結果を出す仕組みを整え、その上で発想を広げるための仕組みを併せて用意すれば、その懸念は払拭されるだろう。

「編集者が育つための制約を、どう設計するか?」

編集者を育てる組織作りについて考え続けるなかで、向き合うべき課題の解像度がどんどん高まってきているのを感じる。


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『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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