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「えっ、えっ、えぇっーー」の力

編集者の仕事は、作家の才能を「引き出す」ことだと僕は考えている。

どんなストーリーやキャラクターを作ればヒットが生まれるのかと、企画の「答え」を提案するのではない。より面白いアイディアが作家の心の中から出てくるように、作家が内省するきっかけとなる鏡のようなコーチが、今の僕が目指している編集者像だ。

そして、「変えてなくてはいけない」と感じる自分の課題がある。

僕の「話し方」と「聞き方」だ。

僕の長所は、遠慮せずに相手を深掘りし、相手が気づけていないことを引き出すところだ。そのことを、褒めてもらうことが多かったから、僕は「聞き方」がうまいのだと自己認識をしていた。

だが実際は、相性のいい作家の才能を偶然引き出せていただけはないか、と自分の長所を疑い始めた。出版社時代、付き合う作家は限定されていた。新人状態を自分で抜け出してきた、強い作家とだけ仕事をしていた。自分の力を発揮しやすい相手を、無意識に選んでいたかもしれない。

これまでの作家は、マスメディアの中の限られた席を勝ち取るための、ある種の「強さ」が求められていた。編集者からの質問で、深い内省をするきっかけになればいい。僕がどんどん質問するのは、新人を鍛えるトレーニングの一環だと思っていた。苦手をトレーニングで克服することでプロになる。

メディアには人が集まってきていた。厳しく接して、そこを勝ち抜く人と仕事をすればいい。

でも、ネットの時代は違う。多様性が輝く時代だ。強さは、もう求められていない。自分の好きなことをとことん伸ばせばいい。苦手は、自分が向き合いたいと思ったタイミングで向き合えばいい。編集者が向き合わせる必要はない。

より多様な個性を引き伸ばすためには、相手がドキッとする質問をするのではなく、寄り添っていくのがいいのではないか? そんな風に考えて、受容の仕方を試行錯誤していた。

相槌の打ち方だったり、うなづき方を工夫しているのだけど、なかなかしっくりこない。先日、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんと対談して、急に雲が晴れた感じがあった。

「驚く」のだ。

「えっ」と驚くのは、最高の受容だと。

自分の発言に対し、「なるほど」とリアクションされる場合と、「えっ!?」と驚かれる場合、どちらが続きを話したくなるか。

一見、「なるほど」は相づちとして相手を受容している言葉に聞こえるが、会話をまとめている。「なるほど」の後に、その話題を広げていくのは意外と難しい。「なるほど」や「確かに」といった相づちは、無難に会話を終わらせて、次の話題に移りたい時に使われることが多い。

一方、驚きの場合は、相手が話題に興味を持っていることが伝わってくるので、その先を話したくなる。相手を話しやすくする、自然なアシストが「えっ」という言葉だ。

子育てでは、自然とできている時があることを思い出した。

息子が絵を描いて近寄ってきたとき、「えっ、この絵は誰が描いたの!?すごいね」と驚く。本当に誰が描いているかわからないわけじゃない。演技で驚いている。でも、そのほうが、息子には僕の承認が伝わる。

論理的に評価されるより、感情で反応されたほうが、人は嬉しい。逆にいうと、感情で反応がないのに、論理的に褒められても人は喜ばないのだ。

「驚く」というのは、すごくわかりやすい感情の変化だ。

自分の感情を「反応」として相手にきちんと伝える。

これが僕に足りていないことだと気づき、最近は「驚く練習」をはじめた。発言に対して、意識的に大きく驚いてみる。些細なことでも驚いてみる。そんな練習だ。

自然発生的じゃないと感情はダメだという思い込みがあった。感情もコミュニケーションの道具として使う。感情を相手に伝える練習の第一歩として、驚きを伝えるのは、すごく有効だ。

寄り添うとは、感情を揃えること。一緒にいることでもないし、同じ考え方をすることでもない。感情を揃えることが大事なのだ。

「Conpassion」という単語があるけど、まさに「Passion」を揃えることが、寄り添うことなのだ。理性ではなく、感情で繋がる関係を築いていきたい。

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