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身体感覚に耳を澄ませ、「からだメタ認知」を高める

クリエイティブであるとは、どういうことか?

一流のクリエーターと会うと、ふとした会話の際に「そんなところまで見ているのか!」と驚かされることが多い。ほとんどの人が気づかないちょっとした歪みや、見落としてしまいそうな美しさに、彼らは気づく。

観察力こそが、クリエイティブであるためのドミノの一枚目である。そうした考えから、『観察力の鍛え方』という本を書いた。

本を発売した後も、観察力についての考察は続けていて、観察力を鍛えるための基盤となる重要な要素とは何かを考えている。

今興味があるのは、身体感覚に耳を澄ますことだ。

日常生活を過ごしていると、「あっ。なんか今、すごく気持ちい」「あれ。いつもと違って、なんかザワザワする」みたいに感じる瞬間が、あちらこちらで生まれては消えている。そういった体感に耳を澄ませて向き合ってみると、自分ならではの着眼点が生まれ、それまでに見えなかったものに気づくことができるのではないか。

そうした仮説があり、数年前から、身体感覚への感度を高めたいと思いはじめた。ヨガや瞑想をはじめたり、呼吸法について学んだり、武術家の人に話を聞いたりしているのも、全てはそのためだ。

そうした中で、ぼくのこうした仮説をより言語化するのを助けてくれた本がある。

身体知の学びを専門分野にしている諏訪正樹さんが書いた『身体が生み出すクリエイティブ』だ。

「こつ」と「スランプ」の研究 身体知の認知科学』という本で諏訪さんのことを知ったのだが、そこで書かれていた内容をもう少し噛み砕いて説明してくれているのが、この『身体が生み出すクリエイティブ』だ。

この本では「からだメタ認知」という言葉が登場する。

体感の微妙な差異に着目したいと思っても、体感とは実に刹那的で、すぐに流れ去ってしまう。では、体感に向き合うために、どうすればよいか。諏訪さんが提唱しているのは、「ことばの力」を借りて、体感への留意を保つことで、差異を認知するという試みだ。

言語化は、オノマトペのような擬音でも構わない。例えば、坂道を上る時に感じた体感として、「足首にかかる『くわっ』とした感覚があった」「ふくらはぎに『ずしん』とした緊張感を覚えた」と表現してみる。正しい正しくないは考えずに、自分の感覚を頼りに、言葉のラベルをつけてみる。

こうやって体感を言語化し分類することで、「くわっ」と「ずしん」は異なる体感であることが理解でき、自分の身体に対する感性を少しずつ研ぎ澄ませていくことができる。

先日、コルクラボのゲストに諏訪さんに来ていただき、話を色々と聞かせてもらったのだが、諏訪さん自身の「からだメタ認知」の試みも面白かった。

諏訪さんは日本酒が好きで、様々な日本酒を飲んでは、その味わいを言葉で表現することを続けている。どんな言葉で表現しているのかというと、「今回は『むちゃみ』って感じ」といった感じで、独特のオノマトペで表しているそうだ。

そうやって生まれた表現をしっかりと記録していくと、「喉越しがいい時には、いつも『み』が最後に入っているな」みたいな感じで、表現の傾向がわかってくるらしい。そして、日本酒の味わいに対する解像度は、言葉によって認知することで、どんどん高まっていると感じているそうだ。

こうした話を聞いて、手塚治虫が「シーン」という書き文字を生み出したことを思い出した。「シーン」という音は実際には存在しないはずだが、この言葉が書かれていると、その空間の静かさを感じることができる。これは手塚治虫の身体感覚として、「シーン」という言葉が、その体感にぴったりな表現として浮かび上がってきたからではないか。

そういう意味で言うと、ダウンタウンの松本さんは体感に、名前をつけることの天才だと感じる。ぼくらが当たり前のように使っている言葉で、実は松本さんが使いはじめて、世に広く浸透した言葉は沢山ある。一例として、以下の表現は、松本さん発の言葉だと言われている。

「空気を読む」「ドン引き」「イラッとする」「絡む・絡みにくい」「グダグダ」「ブルーになる」「ハードルを上げる」「事故る」「サムい」「へこむ」

刹那的に発生した体内感覚や情動を流さずに、それを表現するのにピッタリな言葉を見つけていく。その感度が圧倒的に高いのが、松本さんなのではないだろうか。

まだ言葉には落とし込めていない、体内感覚や情動みたいなものごとが、日常のあちらこちらで生まれては消えている。そういった体感に耳を澄ませて向き合ってみると、自分ならではの着眼点が生まれ、「新しさ」や「面白さ」が生まれてくるのではないだろうか。

諏訪さんと話をさせてもらい、自分も「からだメタ認知」を高める試みを、もっと意識的に実行していきたいと感じた。


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『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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