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次の世代のために、ゼロに戻す行為の尊さ

自分は次の世代に何を引き継ぎたいのか。

以前に『人生を通じて、自分は何を「引き継ぎ」たいか?』というnoteを書いたが、40歳を超えて、人生の折り返し地点が見えはじめた辺りから、この問いについて深く考えるようになった。

その背景のひとつに、福岡に移住してから関わっている『雲孫(うんそん)財団』の存在もあると思う。雲孫という言葉は、自分から数えて九代目の子孫を指していて、雲孫のためになる活動をコンセプトにしている。

雲孫財団に関わる前は、200年も300年も先の子孫たちのために何をすべきかなんて考えたことはなかった。財団のメンバーたちと活動をともにすることが、自分の思考に確実に影響を与えていると感じる。

そんな風に「引き継ぐ」について考えるなかで、胸を打つ光景があった。それは、福島第一原発の廃炉作業を視察させてもらった時のことだ。

福島第一原発というと、水素爆発の事故が起きた際のショッキングな映像や写真がメディアで大きく報じられたことから、その時のイメージを持っている人が多いかもしれない。

現在、福島第一原発では廃炉に向けた様々な取り組みが進められていて、施設内の環境は大幅に改善し、視察には私服で参加することができる。1000人を超える作業員が働いていて、大型の休憩所や食堂もある。施設のすぐ後ろには海が一面に広がり、視察当日が晴天だったこともあり、とても穏やかな空気が流れていた。

とはいえ、福島第一原発の廃炉作業は世界でも前例を見ない極めて困難な取り組みであり、その終わりは見えていない。視察では作業のロードマップを説明してもらったが、気が遠くなりそうなほどゴールは遠く、かつ周囲の環境や作業員の安全を最優先しながら、慎重に作業を進めていかないといけない。少なく見積もっても、全工程の終了は2050年代まではかかるだろう。

こうした終わりの見えない作業を1000人を超える人たちが粛々と進めている。その光景を目の当たりにして、ぼくは尊さのようなものを感じた。

未来に向けて何かを残すことを考える時、ピラミッドやサグラダ・ファミリアのように、何か新しいものを生み出すという行為はイメージがつきやすい。その行為に作り手として参加することで、自分の生きた証を歴史に刻みつけようと思う人も多いだろう。

一方、福島第一原発の廃炉作業は、新しいものを生み出すわけではなく、マイナスを限りなくゼロに近づける行為だ。新しい何かを生み出す時に感じるような高揚感は発生しないだろう。でも、未来に引き継ぐということを考えると、ものすごく意義深い行いだ。

人間の歴史を振り返ると、イノベーションと呼ばれるような新しい何かを作り出してきた人たちが賞賛されてきた。だが、社会が次の時代へ移り変わろうとしている時、それまでにあったものを解体してゼロに戻していく行為も同じくらい重要になっていく。歴史の陰には、そうした行為を担ってきた人たちが沢山いたはずだ。

世界は贈与でできている』という本では、自分の知らない誰かが社会を支えていることに注目し、その誰かのことを「アンサング・ヒーロー」と呼んでいた。そうした数多くのアンサング・ヒーローたちから受け継がれて、現在が成り立っている。

原発で働いている人たちは、アンサング・ヒーローだと感じた。


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