
一流のクリエイターは、「やりすぎる」が止まらない
コルクの行動指針のひとつに「やりすぎる」がある。
新人時代はまず「スピード」をやりすぎる。そして「量」をこなせるようになると、そこから「質」を追求する余裕が生まれる。この順番で「やりすぎる」を意識することが、自分を成長させるための近道だと感じている。先週のnoteでも、そんな話を書いたばかりだ。
では、質を「やりすぎる」とは、どういうことなのか?
先日、マンガ家の小山宙哉と久しぶりに食事をしながら話をした。そして、小山さんこそ「やりすぎる」をまさに体現している人だと改めて感じた。
小山さんは昔から、色々なものをDIYするのに長けた人だった。
新人時代の小山さんはフリーハンドで絵を描いていた。フリーハンドの絵は、味があるが、世間的な大ヒットになりにくい。多くの人は、一見して整った線のほうが好きだからだ。そのため、定規を使って、線をきれいに描くことをアドバイスをした。
小山さんは、すぐに定規を使って描くようになったが、『ハルジャン』という作品をやっているときに、彼のアシスタントが小山さんの事務所の定規が使いにくいと愚痴をぼやいていた。
小山さんに聞いてみると、定規にカッターでギザギザの細かい刻みを入れていた。そのギザギザ定規を使うと、線がまっすぐでも、微妙にゆらゆらする。その線のゆらぎは、パッと見では気づかないくらいの細かさだが、線のもつ情報量が増えて、味が生まれる。
ぼくがアドバイスした「きれいな線」を描くことを達成しつつ、さらに自分なりの工夫を加える。道具を自分で開発してまで、自分らしい表現を追求する姿を見て、小山さんの才能に改めて心を打たれた。
こうした小山さんのDIYエピソードは、数え切れないほどある。小山さんの事務所に行いくと、小山さんがDIYしたものが至るところに散りばめられていて、その工夫やこだわりにいつも感心させられていた。
『宇宙兄弟』の担当編集をコルクのメンバーに引き継いでから、小山さんの事務所を訪れる機会は少なくなった。しかし、先日の食事会で、小山さんが最近DIYしたものの話を聞き、その斬新さにまたしても驚かされた。
共通点は、白く塗り、金属製の取っ手がついていることだ。



白く塗り、金属製の取っ手をつけることで、まるで宇宙船の中にあるアイテムのような雰囲気が醸し出せる。そのことに気づいてから、事務所のさまざまなアイテムを、このスタイルに生まれ変わらせているそうだ。
この発想はどこから湧いてきたのかと尋ねると、小山さんの答えに驚かされた。きっかけは、昔ぼくが小山さんに贈ったトム・サックスの写真集だったというのだ。
トム・サックスは「スペース・プログラム(Space Program)」と題した一連のプロジェクトで、木材やその他の素材を用いて、宇宙服や宇宙船を再現したアート作品を制作している。そのどれもが不思議なかっこよさを放ち、小山さんの創作のヒントになればと写真集を贈ったのだった。
その後、小山さんとの会話でトム・サックスが話題に上ることはなく、ぼくはその写真集を渡したことすら忘れていた。しかし、小山さんはトム・サックスの作品に強く惹かれ、そこからアイデアの着想を得たという。
小山さんはこのアイデアをとても気に入っていて、ペンやハサミといった小物にも専用の収納ケースを作り、ひとつひとつに取っ手をつけている。DIYしたい対象が次々と見つかり、その意欲は止まるところを知らないそうだ。

ぼくが思うに、「やりすぎる」を体現できる人とは、自分の中に明確な「ものさし」を持っている人だ。
理想とする基準を掲げ、それを満たすため、あるいは超えるために試行錯誤を重ねる。周囲の人から見れば「もう十分だ」と思えることでも、本人にとっては物足りなく、手を止めることができない。
そんな姿は、周りから見ると夢中になっているように映る。それこそが、質を「やりすぎる」ということだ。「こだわりがすごい」と言われる人の多くは、夢中になって、やりすぎている。
小山さんは、自分の「ものさし」の解像度が高いだけでなく、いいと思ったものを積極的に取り入れ、それを自分なりに更新していくのが上手い。そして、「やりすぎる」を、心の底から楽しんでいる。だからこそ、クリエイターとして成長し続けるのだろう。
DIYについて熱く語る小山さんを見て、そんなことを強く感じた。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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