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才能の依存先は人ではなく、その人を取り巻く環境

才能とは、果たして何だろうか。

以前は、才能は「人」に依存するものだと考えていた。そのため、編集者は才能を見極める能力が重要であり、編集行為とはその才能が開花するように働きかけていく行為だと捉えていた。

でも、現在はそうは思わない。才能の種とは、特別な誰かに宿るものではなく、すべての人の中に存在している。

才能が依存するのは人ではなく、その人を取り巻く「環境」だ。

才能と環境が相互作用する中で、その人の才能は花開いていく。編集行為とは、相手の才能に直に働きかけることではなく、その人を取り巻く環境に働きかけることではないか。そういう風に考えるようになった。

「人は、人によって磨かれる」

成長について考える時、この言葉を何度も思い返す。ダイヤモンドを研磨し、永遠の光沢を出すには、同じダイヤモンドで磨くしかない。人も一緒だ。一人で部屋にこもって、知識を蓄えても、成長できない。誰と出会い、どんな影響を与え合い、どう磨きあっていくかが重要だ。

先日、『劇画の神様~さいとう・たかをと小池一夫の時代』というマンガを読んで、そのことを改めて実感した。

作者の伊賀和洋さんは、さいとう・たかをプロダクションに1970年に入社し、劇画の手ほどきを受けた後に、1972年に小池一夫さんのスタジオへ移り、これまでに様々な作品を発表してきた。そんな伊賀さんが見た、さいとう・たかをと小池一夫の素顔が、この作品では描かれている。

さいとう・たかをといえば、劇画の分野を確立した人物の一人であり、マンガ雑誌に活躍の場を移した後も、『ゴルゴ13』『鬼平犯科帳』などの大ヒット作品を生み出した超レジェンドだ。

小池一夫さんも、劇画界のレジェンドの一人であり、原作者として『子連れ狼』『御用牙』など数々の人気作品を手掛けている。また、後進育成を目的に『劇画村塾』を1977年に開設し、高橋留美子や原哲夫といった大物作家を数多く輩出したことでも知られている。

だが、この『劇画の神様』を読むまで知らなかったことがある。それは、この二人のレジェンドに繋がりがあったことだ。

実は、小池さんがさいとうプロの出身であり、原作者として『ゴルゴ13』にも関わっていたことをぼくは知らなかった。そして、小池さんが独立し、自らのスタジオを設立した際に、さいとうプロから大勢のメンバーが小池さんのスタジオに移ったという事実を知った。

この本では、さいとうさんと小池さんの創作に対するスタンスの違いも描かれている。さいとうプロでは、マンガとは一人でつくるものではなく、チームでつくるものと考えられていた。一方、小池さんは、チームではなく、個人を打ち出していくことを大切にしていた。

おそらく、小池さんの独立にあたり、二人の間には相当な衝突があり、その後もわだかまりは解けないままだったのではないか。だから、メディアに登場する時も、お互いについて言及することを避けてきたのではないか。

この『劇画の神様』という作品は、おふたりが亡くなった現在だからこそ発表できた作品。勝手な邪推だけど、そんな風にぼくは感じた。

そんな中、小池さんが原作をつとめたマンガ版『子連れ狼』をはじめて読んでみたのだが驚いた。それは主人公である拝一刀が、ゴルゴとそっくりだったからだ。

どちらも寡黙で、職業は殺し屋。根は優しいが、仕事となれば、どんな相手も容赦なく殺す。ゴルゴ13の時代劇版といった感じで、小池さんは子連れ狼で、ゴルゴ13を無意識にリメイクしてしまっていたのではないかと感じたほどだ。

一方、小池さんといえば「キャラを立てる」で有名だが、さいとうプロの作品は『鬼平犯科帳』『仕掛人・藤枝梅安』にしても、キャラが抜群に立っている作品ばかりだ。池波正太郎の原作小説の段階でキャラは既に立っているが、それをマンガ表現に落としこんで、キャラとして昇華していっている。

そうした二人の共通点を見出す中で、袂を分った後も、お互いに強い影響を与え合っていたのではないだろうかと感じた。それ故に、二人の才能がより強く磨かれていったのではないかと。

人は、人によって磨かれる。改めて、この言葉を思い浮かべた。

また、作品とは作家が完全にゼロから生み出すのではなく、その作家が置かれている環境から影響を受けて、立ち上がってくるものであることも再認識した。

時代が流れていくと、その作家を取り囲んでいたものが見えなくなるため、その作品は特異な才能によって生まれたかのように見えてくる。でも、その作品が生まれた時代や、その作家の周囲にいた人たちのことを調べていくと、独立した才能というものはないことがよくわかる。

歴史を調べれば調べるほど、個人の努力以上に、その人を取り巻く環境が、才能を開花させるために重要であることがわかってくる。

コルクでは、『コルクマンガ専科』をはじめとした、クリエイター同士が切削琢磨できる環境づくりに力を入れているが、こうした活動をより注力していきたいと改めて思った。


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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