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マンガはキャラが全て。その意味を改めて痛感

物語を創作するとは何か?

魅力的な「ストーリー」を生み出すことが、作家の才能だと思う人は多いかもしれない。もちろん、物語を巧みに演出し、読者を物語の世界へと引き込む力は、作家にとって大事な資質のひとつだ。

しかし、マンガにおいては、ストーリーよりもずっと大事なことがある。

読者が何度も会いたくなる「キャラクター」を生み出すことだ。

マンガのすごいところは、読者が何度も作品を読み返してくれることだ。ドラゴンボールだったり、スラムダンクだったり、自分の好きなマンガを単行本が擦り切れるほど読んでいるという人は多いだろう。

では、話の筋は完全にわかっているのに、何度も読み返すのはなぜか。それはキャラクターに、また会いたいからだと思う。

ミステリー小説を何度も読み直さないように、ストーリーが面白いだけの作品は消費されて終わってしまう。一方、キャラクターがいい作品は何度も読み返されて、未来へと残っていく。ぼくが出版社に入って、まず最初に教えられたことも「マンガはキャラクターが全て」ということだった。

ただ、少年誌と青年誌では、作品づくりにおける優先順位が少し変わってくる。

少年誌の場合、連載のはじめの数話で、主人公や主人公を取り囲むキャラクターたちが、いかに魅力的かを読者に伝えていく。このキャラクターたちの成長や奮闘を見届けたいと思って、読者は作品を読み進めていく。

青年誌の場合は、テーマへの共感で作品を引っ張っていくことが多い。主人公の置かれている境遇に共感し、この状態をどう乗り越えていくのか。この葛藤とどう向き合っていくのか。それを見届けたいと作品を読み進めるうちに、キャラクターたちのことも好きになっていく。

例えば、『宇宙兄弟』の第一話では、打ちのめされていたムッタに、本当に自分のやりたいことは何かを思い出せる出来事が起こる。果たして、この主人公はこの落ちぶれた状態からどう再起していくのか? それが読者が物語を読み進めていく大きな動機になる。

もちろん、青年誌であってもキャラクターは重要になる。宇宙兄弟の場合も、どういう主人公であれば読者が応援したくなるかを小山さんと何度も話し合った。連載を続けるうちに、小山さんのキャラクターを描く力はどんどん磨かれていって、今や宇宙兄弟は愛されるキャラの宝庫になっている。

こうした少年誌と青年誌の違いにより、青年誌で長く働いていたぼくとしては、テーマを優先的に考える癖が無意識のうちについていた。テーマへの共感を生むことが第一で、そのうえでキャラクターの魅力を磨いていく。こうした順番の思考の流れが勝手に根付いていた。

新人マンガと向き合う時も、まずは作品のテーマを読者に伝える「物語構成力」を高めることが最重要と考えていた。

主人公はどんな境遇に置かれていて、直面している課題にどう向き合っていったのか。こうした物語の筋をわかりやすく伝えながら、主人公の感情の動きをしっかりと演出して伝えることができる。これが、ぼくの考える物語構成力のざっくりとした定義だ。

そのため、新人マンガ家のうちは、まずは1話完結の読み切りを何作品か描いてみて、物語構成力が十分に育ってきたとお互いに納得したタイミングで、連載に向けて準備をはじめる。この段階ではじめて、連載に向けたテーマだったり、どんなキャラクターがそのテーマに相応しいかを考えていく。

だが、先日、この方針を見直したほうがいいと感じる出来事があった。

とある少年誌でマンガ編集長を長年つとめてきた方と対談させてもらう機会があったのだが、その編集部では新人マンガ家を育成する時に、とにかく魅力的なキャラクターをつくることを徹底的に重視するそうだ。

特に印象的だったのが、読み切りに対する認識の違いだ。

ぼくは前述したように物語構成力を高める練習の場だと捉えていたが、そこでは新連載に向けた試金石のような場所だと捉えていた。読み切りでキャラが読者に受け入れられるかを見極め、その読み切りが多くの読者に受け入れられたのなら、そのキャラを磨き上げて新連載へと育てていく。

言われてみれば、少年誌の読み切りは、後の連載作品のプロトタイプのような作品が多い。例えば、鳥山明は『ドラゴンボール』の前に、悟空のような主人公が活躍する『ドラゴンボーイ』という読み切りを描いている。他にも、『ワンピース』であれば『ROMANCE DAWN』、『鬼滅の刃』であれば『鬼殺の流』など、枚挙に暇がない。

この話を聞いて、自分の中で、キャラクターを作ることへの優先順位が低すぎたのもかもしれないと感じた。キャラが重要と理解していたつもりだけど、この意識のちょっとした差が大きな違いへと繋がっている気がする。

物語構成力も高めながら、魅力的なキャラをつくる力も高めていく。

二兎を同時に追うのは難しいかもしれないが、読み切りの段階からキャラクターへのフィードバックをもっと意識的にことで、編集のあり方が随分と変わりそうな予感がしている。

この気づきを社内でもしっかりと共有して、コルクマンガ専科のカリキュラムなども、もっと進化せていきたいと思った。


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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