創作の質を変える『読み解く力』の鍛え方
「良い創り手であるためには、まず良い読み手であれ」
この言葉は、ぼくが新人マンガ家に必ず伝えるメッセージだ。
数多くのクリエイターたちと接してきて、一流のクリエイターたちに共通する特長に気づいた。それは「作品を読み解く力」の卓越さだ。
彼らは、感銘を受けた作品について、表現やセリフといった細部にまでひとつひとつ目を配る。そして、作者がどんな意図を込め、どのような効果を生み出そうとしているのかを、深く考察し、丁寧に語ることができる。
プロの作家が作品を世に出すまでには、何度も推敲を重ねるのは当たり前だ。全体の構成から、一文やひとコマの細部に至るまで、すべてに意図が込められている。
「この一文で読者に緊張感をもたせたい」「ここでは後半の盛り上がりに向けて伏線をはりたい」「このシーンでは少し笑いを入れて、雰囲気を和ませたい」。なんとなくで描かれている部分はひとつもない。
そうした著者の意図を読み取れるようになると、自分が創作する際にも、一つひとつの表現に意図を込めながら物語を構築できるようになる。だから、ぼくは新人マンガ家に「読む力をあげていこう」と必ず伝えている。
読解力があるとは、技術に込められている意図を見抜けることだ。
先日、コルクに所属するマンガ家のつのだふむ君と連載作品について打ち合わせをしていたときも、この話題が上がった。
ふむ君は、作品に登場するキャラクターをより深く理解するため、その「キャラらしさ」を端的に表現した1ページマンガをSNSに投稿する試みを始めた。その試み自体は素晴らしいのだが、投稿されたものを見ても、そのキャラの魅力があまり伝わってこない。
どうすればキャラが生き生きと感じられるのか?そんな議論の中で、ふむ君にとって理想的なキャラ描写の作品が、映画『6才のボクが、大人になるまで。』であることを知った。この作品を昔映画館で見て深く感動し、最近見返してもなお感銘を受けたそうだ。
ぼくもこの作品を観てみたが、確かにキャラクターたちが生き生きと動いている。そして、ふむ君と二人で「なぜこれほどキャラが魅力的に映るのか?」を一緒に細かく分析することにした。
でも、それができなかった。自分に影響を与えた、自分らしさにつながる作品を特定することも、作家にとって重要な第一歩だ。次の第二ステップが、その作品の魅力を存分に語れるようになること。
存分に語るためには、まず「分けて」ことだ。その作品をさまざまな形に分ける。
「わかる」という言葉は「分ける」に由来し、「わからない」とは、分けることができない混沌とした状態を指す。物語の構造や骨格といった大枠をつかみ、その次に細部の表現や演出を丁寧に分解していくことが重要だ。
さらに、要素を分解した後には、「それぞれの関係性」を考えることが求められる。
以前書いた『本当の理解とは、「分けて考える」の先にある』というnoteでも触れたが、要素ごとに深掘りを進めても、それぞれの関係性を理解しようとする姿勢がなければ、成長はそこで止まってしまう。
マンガであれば、絵・キャラクター・プロット・世界観・セリフ・コマ割り・構図・演出といったさまざまな要素が複雑に絡み合い、物語の面白さやキャラクターの魅力を生み出している。どの要素も単独では成り立たず、その関係性を見つめる必要があるのだ。
時計を作るのであれば、まずは時計を解体して組み立てるところから始める。医者であれば、解剖をしてから、人体を知っていく。
自分の大好きな作品を分解し、各要素への解像度を高め、それぞれの関係性を理解しながら、最適なバランスを見極められる。それが「読み解く力」が高いということで、創作する人の読み方だと思う。
この読み解く力を高めることは、編集者にとっても重要であり、むしろ作家以上にこの力が求められるのではないだろうか。
ぼく自身も、自分の読み解く力がまだ十分とは思っていない。自分の読解力があがると、今まで読んだことがある作品も違う顔を見せる。それで、定期的に読み直すとより味わい深い。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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