中国を舞台に、世界の心に届くマンガをつくる
先日、中国の福建省にある廈門(アモイ)へ出張に行ってきた。
コロナ禍以降、中国に入国する際には、観光やビジネスといった目的に関わらず、事前にビザを取得しなければならなくなった。
この手続きが結構な手間で、もしこれがなければもっと気軽に出張や旅行ができるのにな、と思わずにはいられない。実際、この影響もあってか、日本から中国を訪れる観光客はここ数年で激減しているという。
観光客が減少したこともあってか、YouTubeなどのSNSでも中国国内の文化や日常の情報をあまり見かけなくなった。代わりに目にするのは、経済不況の話題や、悲惨な事故や事件といったネガティブなニュースばかり。普通の人々がどんな日常を送っているのか、その姿はあまり伝わってこない。
「日本から近いのに、なんだか遠い国。」
そんな印象を、これだけ中国に出張へ行っても、ぼくはまだ抱いている。
今回、ぼくが廈門を訪れた理由は、中国でマンガ家を育成している人たちと会うためだった。
実は、『コルクマンガ専科』の講義内容に共感し、マンガ専科のオンライン講義に中国語の字幕をつけ、中国国内で展開したいと申し出てくれたのだ。コルクとしても、中国のマンガ産業の発展に貢献できるならという思いから、快諾した。
その人たちの活動拠点が廈門にあり、対面で会ってみたいと思いから、今回の訪問に至った。すでに講義の配信は始まっていて、なんと約60名の受講生がいるらしい。
中国ではマンガがやっと産業として立ち上がってきたばかり。現在はマンガプラットフォームの影響力が非常に強く、プラットフォーム側が求めるジャンル以外を描くのが難しい状況だ。このことについては、昨年投稿した『復讐もの以外描けない。この現実について思うこと』というnoteでも触れた。
一方で、マンガ専科の講義では、「いま流行っているもの」ではなく、「自分が本当に描きたいもの」を描くことを大切にしている。そのため、半年間にわたる講義では、まずは自己分析からスタートし、「自分らしさ」をどう作品として表現していくかを考えるプロセスを重視している。自分らしさを引き出すために、物語の型を伝える。
こうしたスタイルに共感し、作家性を尊重しながらマンガ家を育てようとしている仲間が中国にいる。その事実に、ぼくは大きな希望を感じた。
さらに、こうした感情は、ぼく自身の創作意欲にもつながっていった。中国を舞台に、世界中の人たちの心に届くようなマンガを作ってみたい。そんな思いが、改めて胸の中で膨らんでいった。
たとえば、「食」を切り口にするのは、どうだろうか。
今回の出張では、廈門に訪れたこともあり、はじめて福建料理を味わった。中華料理の魅力は、四川料理や広東料理といった地域ごとに異なる豊かな特色にある。そして、福建料理にはまた独自の個性があり、その新鮮さに驚かされた。食の食文化の奥深さを改めて実感する機会となった。
さらに、中国で働く人たちと色々な話をする中で、「食」が彼らのアイデンティティーに深く根ざしていることを強く感じた。
中国の都市には、さまざまな地方から来た人たちが集まり働いている。田舎の小さな村から出てきた人たちも多く、その背景は実に多様だ。中には、地元で暮らしていた家族が亡くなり、故郷を失ってしまった人もいる。
そんな彼らにとって、地元の料理は特別な存在だ。地元の味を口にすると、懐かしい故郷の空気や思い出が鮮やかに蘇るのだという。
この話を聞いたとき、ふと『深夜食堂』を思い出した。
深夜食堂といえば、さまざまな登場人物が「食」をきっかけに心を満たしていく物語だ。その人気は日本にとどまらず、ドラマ版が海外でリメイクされるなど、世界中に広がっている。
「忘れられない味」というテーマは、国や文化を超えて共感を呼ぶものなのだろう。ちなみに「深夜食堂」は、アジア圏では、日本では想像できないくらいの存在感を持った作品になっている。
日本以上に広大な土地を持ち、地域ごとに多彩な食文化を持つ中国で、「忘れられない味」をテーマに、中国で生きる人たちのドラマを描く。そんな企画を思い描いてみると、自然と胸が躍る。
他にも、「食」をテーマにしたアイデアはいくつかあり、構想が頭の中で次々と膨らんでいる。たとえば、『美味しんぼ』のような「グルメもの」も面白いだろうし、Netflixでヒットしている『白と黒のスプーン~料理階級戦争~』のような「料理人バトルもの」に挑戦するのも魅力的だ。
ただ、中国の人たちの心に本当に届くマンガをつくるためには、現地の文化や感情を深く理解することが欠かせない。
だからこそ、中国出身の人たちと一緒に作品を作るのが一番だろう。そんなパートナーと出会い、共に新しい物語を紡ぎたいという気持ちが、強く湧き上がってきた。
幸いなことに、先日、中国外務省が日本人向けの短期ビザ免除を再開すると発表した。
このニュースを聞いたとき、真っ先に頭に浮かんだのは、「これからもっと中国での活動を広げられる」という期待感だった。思い描いている数々のアイデアが、実現に向けて一歩踏み出せるように思う。
日本に在住して、マンガ家を目指している中国の方がこれを読んだら、ぜひXで連絡をもらえたらと思う!一緒に打ち合わせをしたい。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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