虹色のチョーク

「期待しない」から作れる仕組み

 多くの人は、この本を、素敵な試みをする会社の本として読むだろう。しかし、僕は打ちのめされた。経営者としての圧倒的な実力差を、終始感じさせられたからだ。

 小松成美による『虹色のチョーク』は、日本理化学工業を描いたノンフィクションだ。知的障がい者たちが、幸せをみつけ、健常者以上の能力を発揮し、活躍する姿を描いている。

 経営とは「メンバーの能力、モチベーションを引き出し、それを組織化して、アウトプットを出すこと」だと僕は認識している。日本理化学工業の大山親子と僕の間には、天と地ほどの差がある。知的障がいと呼ばれる人たちの能力をたくさん引き出していることもすごいが、多くの人を幸せにする力もすごい。会社の価値は、多くの人を幸せにすることだと僕は思っているが、幸せの深さも考慮すると、日本理化学工業は、日本有数の会社といえると思う。

「人間に役割はあっても優劣などないと気が付けます」
「その人の持つ理解力に合わせて作業工程を設計し、温かい目で見守れば、彼らは健常者と変わらない能力を発揮する。さらに褒められれば喜びを感じ、向上心を持つ」
「大事なのは無理に教えるのではなく。彼らの理解力に合わせて作業環境を作ること。父や当時の社員は、そのことに情熱を注ぎ、作業工程の改善を図っていったのです」
「父や当時の社員たちは、障がい者を前に『どうしてできないんだ』と考えるのではなく、常に『どうすればできるんだ』と、考えました」
「人間の究極の幸せは、人から愛されること、人にほめられること、人の役に立つこと、人から必要とされること、四つと云われた。働くことによって愛以外の三つの幸せは得られるのだ。私はその愛まで得られると思う。」

 企業のノンフィクションは、創業者の活躍、苦悩に光をあてるのが一般的だ。小松成美は、なんと知的障がい者の家族にまで取材の手を広げて、その家族の声も通して、日本理化学工業を描く。

 上記で引用した言葉が、きれいごとではなく、苦悩と困難のゆえにたどりついた、そして、今も確実とは言えず、努力しつづけることで保っているというのが、本からしっかり伝わってくる。

 この本で僕が改めて認識したのは、期待しないことの重要さだ。「期待しない」というのは、まるで相手を見捨てた言葉のように感じるかもしれない。しかし、「期待する」というのは、相手が自分にとって都合のいいように動いてくれると思う、甘い考えだとも言えないか。若手の成長を期待すと言って、大きい機会を与えることは、一見いいことのように思える。しかし、本当に誠実な態度は、若手には期待せず、若手の才能が伸びるような環境を用意することではないか。

 起業する前に、経営者が「誰にも期待しない」と言ってるのを聞いたりすると、寂しい、孤独な人生だと感じていた。今は、全く違う。なんと自分に厳しくいるのだろう、期待する方がずっと楽なのに、と思う。

 大山さんたちは、知的障がい者に期待をしていない。だから、彼らの能力を伸ばす仕組みをつくることができた。そして、その能力の伸びは、大山さんたちの予想を超えた。その時の大山さんたちの喜びは、いくばくだっただろう。期待を叶えてくれた時よりも、もっとずっとずっと大きいものだったはずだ。

 僕は、もっともっと期待を捨てなければいけない。期待を捨てきったところで、思いつくことがあるはずだ。心の中をみつめ、他者への期待をはがしていく行為。多くの経営者が、禅に興味を持つ理由が、僕にもやっとわかりはじめてきた。

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