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余白がある、いい「コマ割り」とは何か

佐渡島庸平(コルク代表)

「いいコマ割りとは何か?」

この20年間、マンガ編集者として、この問いについて考えてきた。

小説では「行間があっていい」としか感想が言えない文章が存在する。同じようにマンガにおいても「いいコマ割りだなぁ」という感想が漏れることがある。ちばてつやや小林まことのマンガを読むと、いつもそれを感じる。

以前、『マンガ編集における、無刀の境地』というnoteを書いたが、モーニング創刊編集長の栗原良幸さんは自身のことを「コマ原理主義者」と言う。

マンガはコマの連続で描かれる表現物であり、マンガのコマは次のコマを目指して描かれる。1つのコマには、次のコマへ向かうテンションが与えられ、読者の目が止まるコマには「時間を一瞬に凝縮した描写」がなされる。

読者のリズムに任せて読めるのがマンガの特長で、それを生み出しているのは、コマだ。コマの中には時間が閉じ込められる。コマで囲むことで、その瞬間に生じた激情的なものから、あいまいなものまで、伝えることができてしまう。

僕は栗原さんのコマ原理主義の意味をおそらくほとんど理解できていない。でも考え続けている。

マンガに深く向き合うとは、キャラやストーリーも重要だけど、コマという表現を深く理解することだと考えているからだ。

でも、自分なりの言語化ができていない。栗原さんが話している言葉を借りてきて話して、自分のものにしようとしてるだけだ。

マンガ家はマンガを描くなかで、感覚的に「いいコマ割りとは何か」を掴んでいくのだと思うが、編集者はそうはいかない。マンガ家とは違うアプローチから、コマ割りについて考えていくしかない。でも、思考を深める手がかりもない。

そんな風に足踏みを続けていたのだが、先日、学習院大学でマンガの研究をしている佐々木果先生と話をさせてもらう機会があり、この問いに対して視界が開けるような発見があった。

佐々木先生は、マンガ編集者として創作の現場に関わっていた経験をもちながら、マンガやアニメーションの領域について広く学際的な関心をもって研究をしている。マンガの歴史について詳しく知りたいと思うなかで、話をさせていただく機会を得た。

先生の研究で特に面白いのは、マンガの起源にまでさかのぼりながら研究していることだ。マンガの歴史のはじまりというと、近代をイメージする人が多いと思うが、実は5世紀ごろからコマを使用した表現は発生していたそうだ。どういう風にコマ割りが進化していったのかを教えてもらった。

佐々木先生曰く、コマ割りにはふたつの役割がある。ひとつはタイムラインの役割。もうひとつは、関係性を表すこと。

その中で、いいコマ割りとは「因果関係を読者が想像できるコマ割り」ではないかという話になり、ものすごく腑に落ちるものがあった。

例えば、Aという人物が冷蔵庫を開けて、中にあるアイスを見ている。次のコマでは、Bという人物が冷蔵庫を開けるのだけど、アイスはない。その様子をみて、後ろでAがニヤッとしている。

描かれていないコマで何があったのか。その因果関係を読者が頭の中で瞬時に補完することのできる。読者に想像する余白を残しているコマ割りだ。

いい作品には、因果関係を想像できるコマ割りが沢山入っている。言い換えれると、余白をうまく残している作品が、いい作品なのだ。

これは言葉で言うのは簡単だが、表現しようとすると難しい。説明的過ぎず、かつ読者を置いてきぼりにしない。その絶妙なバランスの落としどころを見つけていく必要がある。何を描くのかと同じくらい、何を描かないかについて考えないといけない。

この因果関係を伝えるには、4コマ必要なのか、それとも3コマで足りるのか。こうした見積もりができる人が、コマ割りが上手い人なのだろう。

マンガも小説と一緒で、行間をどうやって生み出すか。

マンガ編集者として20年間やってきたが、マンガをより深く理解するための新たな一歩を踏み出せた感覚がある。この視点を持って、マンガについて更に深く考えていきたい。


今週も読んでくれて、ありがとう!この先の有料部分では「最近読んだ本などの感想」と「僕の日記」をシェア。日記には、日々、どんな人と会い、どんな体験をし、そこで何を感じたかを書いています。子育てをするなかで感じた苦労や発見など、かなり個人的な話もあります。

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佐渡島庸平(コルク代表)

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佐渡島庸平(コルク代表)
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