気づきを得るための、AIのうまい活用方法
気づきは与えられるのではなく、自分で得ることに価値がある。
問いを相手に投げかけることで、思考の整理を助け、自分で気づきを得るための鏡となる。それが、ぼくが編集者として目指している姿だ。
問いを投げかけるうえで重要なのは、タイミングだ。その問いを相手が受け入れる準備ができていない時に、問いを投げかけても、思考の整理は進まない。場合によっては、「なぜ、そんな質問を投げかけてくるんだろう」と反発を生む可能性すらある。
じっくりと相手を観察し、自分のペースではなく、相手のペースにあわせる。問いを投げかけるのが上手い人は、タイミングの見極め方が上手い。
「どうやって、相手のペースにうまく合わせていくか?」
ここ近年、ぼくがずっと考えている課題だが、この視点は新しいと思える出来事が先日あった。
現在、コルクでは、創作における編集方針の作成を進めている。
発端となったのは、10年〜15年ほど売れ続けているタイトルを幾つも持っているゲーム会社の代表に話を聞いたことだ。それほどの長い間、人気を得続けられる理由は何なのか。そういう質問をぶつけてみたところ、その理由は組織の育成にあると言われた。
その会社では、「ゲームづくりにおいて守らないといけない100ヶ条」みたいなものが、しっかりとまとまっているらしい。新入社員はその100ヶ条を覚えることが最初の課題で、実際の制作においても、そのルールが守られているかをお互いに厳しく見ていくそうだ。
さらにタイトルごとに、守るべきルールが1000個くらいあって、それもみんなに覚えてもらう。そうすることで、組織が大きくなっても、作品としてブレずに、質の高いコンテンツを届けられる。ゲームは大多数でコンテンツをつくる産業だから、細かいルール作りが大切だとは思っていたけど、ここまで細かくやっているのかと衝撃を覚えた。
コルクでも、編集者が育つ組織づくりを進めるために、認識を擦り合わせるためのルールづくりが大切だと感じていたけど、もっと細かくやったほうがいいと感じた。
それで、コルクにおける「マンガづくりにおいて守らないといけない〇〇ヶ条」みたいなものを、コルクのCCO(最高コンテンツ責任者)である後藤さんにまとめてもらうことにした。
これまで、ぼくと後藤さんは、何度もコルクにおける創作のあり方や新人マンガ家の育成のあり方について議論を重ねてきている。ぼくと後藤さんの目線は揃っているという信頼があり、CCOとして方針をうまく言語化してほしいと思ったからだ。
ただ、後藤さんが作ってきてくれた方針を見た時に、悪くはないのだけど、どこかピッタリとハマっていない感覚があった。そして、そのズレを埋めるために、色々とディスカッションを重ねるのだけど、なかなか埋まらない。
そうした中、ぼくの創作における考え方を改めて聞きたいという相談をもらい、1時間ほど話をさせてもらった。その後、後藤さんに方針を再度作成してもらったのだが、ものすごくフィット感がある仕上がりになっていて驚いた。ぼくらしくもあり、後藤さんらしくもあり、これぞコルクの方針といったものとなっている。
それで、後藤さんに「どうやって、これに辿り着いたのか?」を質問したところ、その回答にもまた驚いた。
まず、ぼくが話した1時間くらいの内容を全て文字起こしし、その内容をAIに学習させたそうだ。そして、ぼくの発言の裏には、どんな思想があるのかをAIに尋ねたりして、自分の理解を補完していったと言う。
結局、他人から何かを伝えられても、リアルタイムで全てを理解するのは難しい。理解が既に深まっているところは処理できるけど、そうでないところは上手く処理ができず、消化不良のまま消え去ってしまう。
ただ、議事録をAIに学ばせると、自分の頭で処理できなかったこともAIには記録されているから、そこも踏まえた上で様々な回答を出してくれる。「話を聞いている時にはスルーしてしまったけど、 ここで話していたことは、ここに繋がってくるのか」みたいな風に理解を深めることができる。
AIの面白い活用の仕方だと思うと同時に、これからの学習のあり方は、こういう風に変わっていくのではないかと感じた。
どんなに相手のペースに合わせようと思っても、完璧に足並みを揃えることは難しい。なぜなら、相手の頭の中を完全に把握することはできないからだ。どこまで丁寧に説明したほうがよくて、どこからは省略したほうが理解しやすいか。その匙加減の見極めは難しい。
であれば、ファシリテーターのような存在を間に立てて、お互いの足並みを揃えられるといいのだが、そんな存在にいちいち間に入ってもらうのは難しい。だが、AIであれば、それが常に可能になる。
ぼくが相手のペースに直に合わせにいくのではなく、ぼくのことを比較的理解しているAIを間に立てたり、ぼくの考えを詳しく知れるwikipediaみたいなものを用意することが、相手が相手のペースで気づきを得る手助けになるのではないか。そういう仮説が生まれた。
ある種、このぼくのnoteも、ぼくの考えを相手のペースで理解してもらうための媒介物のようなものだ。こうした活動の重要性を改めて再認識した。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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