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勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり

古典には、まるで昨日書かれたような普遍性がある。文体の古さをのぞくと、結局、僕はここに書かれていることを回りくどく、現代的に言っていただけか、と残念な気持ちになる。

noteという場で振り返るのに最適な古典は何か。

「徒然草」だ。

つれづれなるままに、日くらし、硯(すずり)にむかひて、心(こころ)に移りゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。

徒然草の有名な序段で、「つれづれ」とは、やることもなく退屈で、暇を持て余していると捉えられることが多い。「暇をしてるから、文章を書いてみたよ」と。

僕はこの文章をこんな風に意訳する。「変化のない毎日だが、自分の心を観察して言語化してみると、びっくりするくらい高揚する。」

コロナで毎日に家にいて、毎日に変化が起きにくい。しかし、noteに文章を書いている人は、吉田兼好と同じように気づいているのではないか。自分の心の中の変化の大きさを。

ふと、吉田兼好が感じたことを通じて、自分の心を観察してみても面白いのではないか、と思った。いつまで続けるかわからないが、定期的に『徒然草』を現代風に解釈してみようと思う。

吉田兼好が生きた鎌倉時代末期から南北朝時代は、今よりもずっと不確実性が高い社会だった。政治の中心が鎌倉から京都に移り、天皇と武士が勢力を争う激動の日々の中で、彼が何を感じたのか。

その第1回となる今回は、徒然草の第百十段。

【原文】
 双六(すごろく)の上手といひし人に、その手立(てだて)を問ひ侍りしかば、「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。いづれの手か疾く負けぬべきと案じて、その手を使はずして、一目なりともおそく負まくべき手につくべし」
 といふ。
 道を知れる教(おし)へ、身を治め、国を保たん道も、またしかなり。
【現代語訳】
 双六の上手といわれた人に、勝つ方法をたずねたところ、「勝とうと思って打つな。負けないよう打とうと思って打つがいい。どんな手を打ったら早く負けるかをよくよく考え、そういう手は打たずに、一目でもおそく負ける手を選ぶことだ」と言う。
 その道をよく知る人の教えである。身を治めるのも、国を保つ道も、これと同じだ。

(引用:『すらすら読める徒然草』)

この内容を読んだ時、僕は亡くなった野村克也監督の言葉を思い出した。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」

勝負は時の運と言うものの、ひとつだけはっきり言えることがある。偶然に勝つことはあっても、偶然に負けることはない。失敗の裏には、必ず落ち度があるというメッセージだ。

OWNDAYSの田中さんは、新刊『大きな嘘の木の下で』で、これを別の言葉で表現していた。

「成功はアート、失敗はサイエンス」

成功に必要な要素は、時代や環境によって変わるし、その人の性格や気質によっても変わる。成功した人たちの方法論をそのまま自分に当てはめたところで、土台となる前提条件が異なるから、成功を再現することは不可能だ。その為、OWNDAYSでは成功体験の共有には、ほとんど力を入れていないそうだ。

だが、クレームに関しては、必ず原因のパターンが存在する。クレームのパターンを解析し、同じミスが再発しないための仕組みを磨き上げることで、客離れを最小限に防ぐことができる。

野球でも、サッカーでも、点を取られなければ負けはしない。ビジネスも赤字にさえならなければ潰れることはない。だから、一番多くの時間を割いて学ばなければいけないのは、「どうしたら負けないか」だと、田中さんは言う。

僕も全く同感だ。

マンガや小説を大ヒットさせようと思っても、ヒットするかどうかは運やタイミングに大きく左右されてしまう。それよりも、読みやすくするための工夫を入れたり、分かりやすくするために表現を整えたり、創作にあたり自分に課した最低限のラインを超えることのほうが重要だ。

会社経営も一緒で、負けない体制を作れば、何回でも打席に立つ機会は回ってくる。打席に立つ回数が増えれば、いつかは絶対にヒットが出る。

今は最悪のケースをたくさん想定して、それでも負けない仕組みを作ることが、多くの人に求められている時代だと思って、この文章にすごく共感した。


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