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チームの思考力を高める、3つの「そろえる」とは?

「個人の才能頼みではなく、チームとして戦っていく」

2年くらい前から、コルクの新人マンガ家の育成を、この方針に変えた。縦スクロールマンガは、スタジオによって制作されるのが世界の潮流で、日本がマンガ先進国だからと今までのやり方を踏襲していては、韓国・中国との競争に負けると感じたからだ。

以前、『2021年版、編集者をアップグレードする挑戦』というnoteに詳しく書いたが、圧倒的な天才でない限り、ひとりで創造性を育み続けるのは限界がある。刺激を与え合い、成長しあえる関係を周囲と築くことで、個人では想像もできなかったアウトプットを生み出せるのではないか。

チームで創造性を保っていると言えば、ピクサーがいい例だ。

ピクサーのすごいところは、個人の才能に依存せずに、チームによって質の高い作品を再現性をもって作り出していることだ。ピクサーは作品ごとに監督やスタッフが交代するが、どの作品もクオリティは一貫して非常に高い。けれど、没個性な作品でもなく、ピクサーらしさもある。同時に個人の才能も引き出している。

とはいえ、チームで作品をつくっていくのは簡単ではない。

サービス開発の現場で、エンジニアとデザイナーの意思疎通がうまくいかず、スムーズに開発が進まないケースをよく耳にする。同様のことが、マンガ家同士の関係でも、マンガ家と編集者の関係でも当てはまる。

多様な価値観を持っているマンガ家や編集者を、どうやってチームにしていけばいいのか。どうすれば、再現性をもって、高いクオリティのものを生み出し続けるチームが生まれるのか。

そのためのヒントがたくさん書かれている本と出会った。楽天大学の仲山進也さんが書いた『アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方』だ。

これまでも仲山さんの本は読んでいて、仲山さんと『宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく チームの話』を書いた長尾彰さんが主催するチームビルディングの研修にも参加させてもらった。仲山さんたちから学んだことは、ぼくの組織やチームに対する考え方にすごく影響を与えている。

この本は、サッカーマンガの『アオアシ』の内容を引用しながら、仲山さんがこれまで書いてきたことを網羅しアップデートした集大成のようなものになっている。

特に印象に残ったのが、チームの思考力を高めて、意思疎通が成立したチームワークを生むには、以下の3つの「そろえる」が大事という点だ。

・観察では「目(事実)をそろえる」
・判断では「頭(解釈)をそろえる」
・実行では「動き(呼吸)をそろえる」

この本では「観察→判断→実行」のループを回すことで、自分で考えて動くようになり、精度の高い判断ができるようになっていくと説かれている。そして、チームで結果を出そうとすると、このループをチームとして回す必要がある。その際に大切になるのが、この3つの「そろえる」という話だ。

アオアシでは、選手達が自分たちの試合を見ながら、一つひとつのプレーについて振り返りを行い、「その時に何をみて(観察)、どう感じて(判断)、そのプレーをしたのか(実行)」を言語化していくシーンがよく描かれている。そうして、お互いの意思疎通の精度を高めていく。

仲山さん曰く、この「そろえる」という話は、サッカー監督の風間八宏さんが話していたことから着想を得たそうだ。

風間さんはパスの出し手と受け手の「目をそろえろ」とよく言うそうだ。同じ認識できていることで、タイミングを合わせられる。それが出来れば、身体能力で勝てていなくても、DFを出し抜いてシュートが打てる。これを徹底させたことが、川崎フロンターレの攻撃サッカーを活性化させたと言われている。

マンガの世界では、マンガを読む際の視点は人によってバラバラだ。キャラクターが魅力的か、設定が面白いか、メッセージ性はあるか、絵に魅力はあるか、カタルシスが得られるか。こんな風に色々な読み方が存在する。

読者としてであれば、色々な読み方があっていいし、様々な解釈があっていい。だが、プロとしてチームで再現性をもって作品を作り続けるなら、そうではいけない。

作品に触れる際の目をそろえ、キャッチした情報への解釈をそろえ、呼吸をそろえて行動する。これらの「そろえる」ができないと、チームとしての強みを発揮し続けることは難しいだろう。

もちろん、これを実現していくのは簡単ではない。だけども、ぼくが目指したいチームを作るためにしないといけないことが、3つの「そろえる」という概念を知ったことで、より鮮明になった。


今週も読んでくれて、ありがとう!この先の有料部分では「最近読んだ本などの感想」と「僕の日記」をシェア。日記には、どんな人と会い、どんな体験をし、そこで何を感じたかを書いています。子育てをするなかで感じた苦労や発見など、かなり個人的な話もあります。

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