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水深20mへの素潜りが、自信の拠り所となっていた

「もう一度、クジラやイルカと泳ぎたい」

大学時代、ぼくは海洋調査探検部というサークルに所属していて、素潜りで海の深みへと潜っていた。その詳細は、昨年投稿した『素潜りから始まった内面との向き合い』というnoteに記してある。

はじめて野生のイルカと泳いだのは、大学3年生の時だった。

場所は、東京から約200キロ南にある御蔵島。三宅島までフェリーで行き、そこから別の船に乗り換えて御蔵島へ向かう。小さな港は少しでも波が高いと接岸できなくなり、天候と運に恵まれたときだけ、イルカと泳ぐチャンスが訪れる。

探検部で毎週トレーニングしていたおかげで、海の中でイルカたちとたっぷりと泳ぐことができた。イルカは美しかった。その姿は、まるで絶世の美女に出会ったような鮮烈な記憶として、今でも僕の中に焼きついている。

これまでの人生で、様々な瞬間を経験してきたが、イルカと過ごした時間は、他のどんな瞬間とも異なる特別な感動をもたらしてくれた。

そして、40代半ばに差しかかる頃、「もう一度、クジラやイルカと泳ぎたい」という願望が静かに沸き上がってきた。気づけば、Instagramのタイムラインは、ダイバーや海の生物の写真がたくさん現れるようになっていた。

とはいえ、大学を卒業してからというもの、海に潜ったことは一度もない。今のままでは、あの頃のような充実した時間を過ごすことはできないだろう。まずは、素潜りの感覚を取り戻すことから始めなくてはならない。

そんな中、プロフリーダイバーの篠宮龍三さんが、沖縄でマンツーマンの素潜りレッスンを行っていることを知った。

篠宮さんといえば、水深115mのアジア記録保持者であり、日本が世界に誇るダイバーだ。ぼくも大学時代からその名前を知っていて、篠宮さんの挑戦には常に刺激を受けてきた。野球少年が大谷翔平に憧れるように、ぼくにとってのヒーローは篠宮さんだった。

先月、たまたま3連休が一人で自由に過ごせることが分かり、そのタイミングで篠宮さんのレッスンにも空きがあることが判明した。これは千載一遇のチャンスだと、思い切って申し込んでみた。

こうして、約20年ぶりに素潜りを再開することになった。それも、憧れの篠宮さんの指導のもとで。

大学時代、素潜りでは水深20mまで余裕で潜れていた。だから、今回のレッスンでも、まずはその20mを目標に設定した。

しかし、久しぶりに海に潜ってみると、すぐに恐怖が襲ってきた。

水中に入ると、体は水圧の影響を強く受ける。水圧によって鼓膜が破れないように、素潜りでは「耳抜き」が必要になるのだが、6mほど潜ったところで耳がうまく抜けなくなり、危険だと感じて海面に戻ってしまう。

それでも篠宮さんの指導のもと、少しずつ深さを増していき、ついに目標の水深20mに到達することができた。

その瞬間、久しぶりに高揚感が込み上げてきた。「まだまだ自分はやれるんだ」という充足感や、自信のような感覚が湧いてきた。

同時に、ひとつのことに気づいた。それは、自分が水深20mまで潜れるという事実を、自分のプライドの拠り所にしていたということだ。水深20mまで潜れるなら、それ以外のことは何とかなる。そんな風に、素潜りはいつの間にか、ぼくの心の奥底で自信の支柱として横たわっていたのだ。

なぜ、これほどまでに重要な行為として、素潜りが自分の中で意味づけられているのか?

それは、素潜りが「恐怖心と向き合う行為」だからかなと思った。恐怖心を取り扱えたことが、自信をうんだのだ。

恐怖心を無理やり抑え込むことはできない。仮にそれができたとしても、それは危険な行為だ。恐怖心を正しく感じないと、ブラックアウトを引き起こしてしまうなど、重大な事故につながる恐れがある。

大切なのは、恐怖心を抱えている自分を、いかに客観的に見つめるかだ。

恐怖心が湧き上がる自分を認識し、その出どころを冷静に観察する。それが本当に恐怖を抱く必要がある状況なのか、慎重に判断する。そして、自分の心拍数や身体の状態、周囲のコンディションを一つひとつ確認していくうちに、焦りが静かに消えていく。

恐怖心を受け入れ、その恐怖心と上手く向き合っていく。それを象徴する行為が素潜りであり、水深20mまで潜れることが、自分にとっての自信の源になっていたのだ。

何歳になっても、フルマラソンに挑戦して、心身ともに健全あることを証明したいと思う人がいる。それと同じように、ぼくもこれからの人生で、定期的に水深20mへの素潜りに挑み続けたいと思うようになった。

早速、篠宮さんが主催するクジラと泳ぐダイビングツアーをその場で予約してきた。開催は来年だが、ついにクジラと泳ぐ夢が叶う時が来る。

その瞬間に、何を感じるのだろうか。今から、とてもワクワクしている。

20メートル潜った時は、篠宮さんが安全確保をしていて写真がなくて、8メートルほどの潜った時の写真。


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表では書きづらい個人的な話を含め、日々の日記、僕が取り組んでいるマンガや小説の編集の裏側、気になる人との対談のレポート記事などを公開していきます。

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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