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「心に寄り添う」とは何か? 病気は暴力的に分人を減らす

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先日、友人の鈴木美穂さんに誘われて、「CancerX Summit 2019」というシンポジウムに参加した。

鈴木さんは、ガンのサバイバーだ。

僕の祖父も30代でガンになり、数十年闘病しながら生活をしていた。高校時代の友人もガンで早逝し、そのことがきっかけとなり、僕は人生について考え直し、起業した。でも、その程度の縁しかガンにはない。医療マンガの担当編集だったこともない。

なぜ、僕が誘われたのだろう?と思ったが、そういう時ほど新しい気づきがえられる。今回も予想通り、発見があった。

現在は、毎年100万人が新たにガンになる。生まれてくる子供の数より多いらしい。それだけ社会に大きなインパクトを与える問題なのに、正しい情報が世の中に広まらない。

パネルディスカッションでは、医者からの正しい情報よりも、ネットに出回っている信憑性の低い情報をなぜ患者が信じてしまうのか、ということが話題になった。患者が医者のアドバイスを聞いてくれない。

今まで、世の中は課題だらけだった。だから、課題解決できる人が偉かった。医者は、病気の課題解決、弁護士は法律の課題解決。資格とは、課題解決できる人という証だ。

資格によって能力が担保され、課題解決できる人には、権威があたえられていた。一般の人は、課題解決できる人の意見に盲目的に従うしかなかった。

ネット時代になって、課題解決だけできる人の価値が一気に下がっている。ネットで検索すると、課題解決の方法が載っているからだ。たとえ、偽情報をつかんでしまうとしても、課題解決する人の権威は下がってしまっている。自分でも判断できるかも。医者が間違っている可能性がある。そんな気分に患者がなってしまう。

医者の権威を使って、患者の行動を良い方向にコントロールすることがもうできない。

医者や教師といった「先生」と呼ばれる立場の人は、相手の感情を考慮することより、「この情報の通りにやるといいですよ」という答えを差し出すことが、役割として求められいた。

しかし、期待される役割が完全に変わってしまっている。患者も自分たちが期待していることが変わったことに自覚できてないし、医者も気づいていない。

権威で人を動かすことは、もうできない。

患者が医者に期待していること。それは、心に寄り添うことだ。

ネット上のインチキな情報は、課題解決は完全に無視しているが、患者の不安な気持ちに寄り添おうとする姿勢は、医者たちに優っている。だから、医者は、負けるのだ。

これは医療だけの話ではない。AI,ロボットによって、仕事がなくなるという言説がまことしやかに言われるが、課題解決をする仕事がなくなるだけだ。今まで、職業として認知されていなかった、「心に寄り添う」感情産業が立ち上がっていくというのが、僕の予想だ。

ガン患者の心に寄り添って、不安を取り除いてから、やっと治療が始められる。

ガン患者が、感じる不安は、どのようなものなのか?

それを想像するのに、平野啓一郎が提案する分人主義が役に立つ。健康な時、人は仕事の分人、家族の分人、趣味のコミュニティの分人、地域コミュニティの分人と複数の分人で構成されている。

病気になると、病人役割を担うように人はなってしまうらしい。この病人役割という概念を僕は初めて知ったのだけど、病人としての分人が、分人の構成比でほとんどを占めてしまうのだと考えるとわかりやすい。病気は、暴力的に、人の分人を減らしてしまうのだ。

多くの人は、何かを「する」人として、自分を認識している。病気は、その全ての「する」を奪う。「する」によって、自分の居場所を確保していた人は、居場所がなくなることに不安になる。

病人の不安は、病だけが原因ではない。

コルクラボでは、兼松さんが考案した「beの肩書きワークショップ」をよくやる。

doとは、「する」だ。どんな課題を解決するのかの肩書きだ。父親であれば、「収入をもたらす」というdoの役割を担っている人が多いだろう。会社では、「営業」「経理」といったdoの役割を担っているだろう。このようなdoの役割は、病気になるとすぐに果たせなくなる。

一方、beの肩書きとは、「挑戦する」「人を笑わせる」といったあり方だ。自己認識をdoの肩書きではなく、beの肩書きでしている人は、病気になっても変わらない。ガンになっても新しい挑戦をする、人を笑わせることをすることで、自分らしさが損なわれていないと感じることができ、自分の居場所が世の中にあると思えるのだ。

心に寄り添うとは、beの肩書きを患者が見つけるのをサポートすることなのだろう。「心に寄り添う」という言葉を耳にする機会が増えたように感じるが、具体的にどのような行為なのか、イメージが湧いていなかった。

今回のシンポジウムで、「心に寄り添う」への解像度が増したのが、僕の気づきだった。

そして、編集者が、クリエイターの「心に寄り添う」とは、クリエイターのdoをサポートし、ビジネス的な成功をもたらすことではなく、beを一緒に見つけられる時なのだろう。

「心に寄り添う」ことは、まだビジネス的な価値として社会で認識されていない。それが仕組み化されていくことが、これからの社会の課題なのだろう。



臨床心理学者の東畑さんの新刊『居るのはつらいよ』も、「する」と「いる」、「ケア」と「セラピー」について考察していて、今回のテーマと深く関連している本だった。この本については、またじっくり書きたいと思う。

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佐渡島庸平/コルク代表

2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。

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