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世界に驚きを生み出す、「とは」思考でいこう!【恥からはじまる「感情」論考 #5】

怒り、喜び、悲しみ、誇り――。
私たちの行動や思考を、無意識のうちに支配する「感情」

誰もが振り回される「感情」とは、そもそも何なのか?
編集者・研究者・マンガ家。
三者三様の視点から、感情の本質を探る!

連載第五回目のテーマは「驚き」

・第一回「恥」の記事は、こちら
・第二回「罪」の記事は、こちら
・第三回「悲しみ」の記事は、こちら
・第四回「誇り」の記事は、こちら

さて、どんな会話が繰り広げられたのでしょうか!?

<書き手=秋山 美津子、カバーイラスト=羽賀翔一>

<登場人物紹介>

佐渡島庸平(Yohei Sadoshima)
コルク代表。新たな才能の発掘やコンテンツ開発に取り組む一方、自らの感性も磨くべく、あらゆる物事をユニークな観点から考察。中でも「感情」は、クリエイターとして大切にしているテーマ。
石川善樹(Yoshiki Ishikawa)
「Wellbeingとは」を追求する、予防医学博士。イベントの対談で佐渡島と意気投合し、以来、友人として刺激を受け合う仲に。「感情を知れば人は幸せになれる」という自説に基づき、自身の感情さえも分析・検証している。
羽賀翔一 (Shoichi Haga)
コルク所属のマンガ家。ベストセラー『君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)刊行から数年、新たな作品を描こうと奮闘するもやや迷走中……。現状を打破すべく、担当編集・佐渡島の呼びかけにより本企画に参加。

・・・

「~では/~とは」会話と「驚き」の、意外な関係性

羽賀:
以前、佐渡島さんが「どんな感情にも、その直前にはまず驚きがある」と言っていたのが、僕の中ですごく印象に残っていて。
たとえば喜んでいる顔を描くときに、いったん驚いた表情の描写を入れると、感情の流れが全然違ってくるんです。

佐渡島:
「驚き」って予想外のことが起きているわけだから、そのリアクションとして続く感情の波が生まれやすい状況だよね。しかも瞬間的なもので長続きしにくいから、驚きのまま終わるシーンってあまりない。強弱はあれども、ほとんどの感情の前に存在していると思う。
ある意味、ポジティブ・ネガティブのどちらの感情でも発生するものだよね。

石川:
サプライズパーティーの「サプラ~イズ!」なんかは、ポジティブな文脈で使われる「驚き」だね。これがネガティブだと、「恐怖」や「不安」に繋がっていくのだろうな。

羽賀:
未知のものに触れたときの「驚き」もありますね。

佐渡島:
「未知」って、それを未知とするための前提条件がある状態じゃないと、そもそも遭遇したことに気付けないよね。「普通」を知らないと、「亜流」を認識できないのと同じで。

たとえば、映画『未知との遭遇』なら「知的生命体は、地球にしかいない」ことが前提条件としてあるからだし、裸で暮らす民族を見つけて「未知の存在」とするのは、「人は服を着ているもの」という前提があるから。
未知のものに対する驚きは、その前提条件とセットだと思う。

石川:
そういえば最近、「では」と「とは」について考えていたんだけれど、何かを語るとき、「~では」で語る人と「~とは」で語る人に分かれるとして、「驚き」を与える人は、殆どが「とは」派じゃないかな。

佐渡島:
「では」派と「とは」派か。それは面白いね!

石川:
以前、仕事関係のパーティーで知り合った人が、「スウェーデンでは」という話を1時間くらいずっとしていて。「それに比べて日本はダメだ!」とまで言っていたから、「ではどうしたらいいのですか?」と聞くと、そのアイデアはない。なかなか会話が続かないんだよ。

そんな「では」派の人と、どうやって話をすればいいのかを考えたときに、「スウェーデンとは?」で会話をしてみたらどうだろうと思ったのがきっかけ。

佐渡島:
それ、「シリコンバレーでは」のパターンもあるな(笑)。

石川:
あるある(笑)。でも「シリコンバレーでは」と言っている人に、「シリコンバレーとは何ですか?」と聞くと、明確に答えられないことが多い。
「では」派の人と話をしていても、驚きはあまり生まれないよね。「へえ、そうなんだ~」とは感じるけれど。

ちなみに、小泉進次郎さんは「とは」の人だと思った。
選挙で自民党が勝ったときも、テレビ取材で「政治における勝利とはなんでしょうか。それは選挙に勝つことではなく、この国の持つ可能性を最大限引き出すことができたかどうかだと思う」という、すごい話をしていた。

羽賀:
確かに「では」だけで会話していると、何も深まらないですもんね。

佐渡島:
それもそうだし、相手への興味も持てないと思う。

石川:
「ヒットマンガとは?」のように「とは」で会話をすると、わからないことを追求しようとするから驚きが生まれやすい。お互いがわからない中で進んでいく先に、「驚き」があるわけだから。
だから「とは」派の人は、何事にもわりと驚きやすいと思う。

僕と佐渡島君で「愛にとって“過去”とは何か?」という話をしたことがあるけれど、最終的に「相手の過去を知ることで、そこから得た情報をもとに、2人の未来を想像している」という考察に辿り着いたよね。
「未来という不安要素を満たすために、過去を求める」なんて、思ってもみなかった着地点に自分でも驚いたし、佐渡島君やその場にいたみんなも驚いていた。

これが「では」の会話だと、自分がすでに知っている情報を出してくるから、自身の驚きもなければ相手も驚かないことが多い。

佐渡島:
「では」だと、情報のマウンティングが始まる可能性もあるよ。「こっちのほうがレアだ」「こっちのほうが、肩書がすごい」「有名な〇〇さんが言っている」とかね。


「~では」ばかり話す人は、名前を覚えてもらえない!?

佐渡島:
善樹の「では」派と「とは」派の話を聞いて、一つ気付いたことがある。
自分の中で名前を覚えられる人と覚えられない人がいて、ずっと「この差はなんだ? どう説明できるのだろう?」と疑問に思っていたわけ。

たぶんこれ、会話が「では」の人の名前を覚えていないんだ(笑)。スラックやチャットワークと同じ感覚で、「あの情報を言っていた人って、誰だっけ?」となっているから。

石川:
その人自身の意見ではないから、パーソナリティと紐づかないよね。
「とは」だと感情や体験がディスカッションのベースとしてスタートするから、自然と生々しくなる。

佐渡島:
ただ自分も講談社に入社した頃は、「ヒットした〇〇というマンガでは……」という思考でやっていたな。ヒット事例としての「では」がすでに数多くあったから、学ぶにはとてもいい環境だと感じていた。
でも今は、「マンガとは」のほうが強いね。そこから始めると、「2コマになって初めてマンガとして成立する」とか「枠がないとマンガではない」といった概念に辿り着く。

「エンタメとは」「遊びとは」なんかも考えるようになったけれど、こうした問いを追求する行為そのものを、サラリーマンが「仕事」として成立させるのはわりと難しいと思うよ。僕も自分が経営者になることで考えられるようになった。

羽賀:
思考の流れとして、「では」から入って「とは」に着地することはないですかね?

佐渡島:
あるとは思うけれど、「とは」から始まって「では」がいくつか入る流れのほうが、納得感があると思う。「ヒットマンガとは?」から「〇〇という作品では……」の流れは自然だけれど、「〇〇では」から入ると、「とは」が見えなくなるよね。

でもまあ、実際は本を作るときも、「では」のほうを盛り込みがち(笑)。「とは」を期待して読みだすと、「では」がずっと続いていたりするし。

僕がコミュニティについて書いた『WE ARE LONELY,BUT NOT ALONE.』も、最初はコルクラボの事例を入れ過ぎてブログっぽくなってしまったので、大幅に書き直したんだよ。

「では」を「とは」に変えて、あとは自分の一次情報と感情のエピソードを、具体例として入るようにした。

「では」情報は、実用書やビジネス書向きだけれど、その文章を読んだ瞬間に消費してしまうから、誰が言ったのか忘れるよね。クリエイティブなコンテンツとしては残りにくい。
マンガや小説でやろうとしているのは、常に「とは」を問いかける行為だと思う。

石川:
作家や編集者、読者が一緒に歩んでいく感覚だよね。わからない領域へ一緒に行くから、長いあいだ付き合っていられる。

佐渡島:
僕が作家から上がってきたネームに「ダメ」と言うときって、「では」の話が多い。「とは」で話してほしいと思っているからなんだな。
そして僕の質問が「圧迫感がある」と言われるのも、「とは」に置き換えようとするからだ(笑)。

石川:
質問された側は、どこから考えていいか、わからなくなるんだろうね。

羽賀:
……はい、佐渡島さんにものすごく整理されます(笑)。

佐渡島:
「驚き」という感情が、思考の在り方によって生まれやすくなるという考察は新鮮だね。「とは」で物事を捉えると、驚きや発見に繋がっていく。

石川:
新しいものを生み出そうとするとき、驚きはセットだからね。驚きがあるということは新しいことだし、驚きがなかったり簡単に理解できたりするものは、新しくはない。

新しいものを生み出そうとするなら、「人に理解されてたまるか!」もアリなんだよ。そして僕は、「“とは”とは?」っていう本を作りたい(笑)。

<第六回に続く>

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