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自分たちのプロダクトは、洗濯機か? 包丁か?

サービスやプロダクトの開発において、チームが共通の「コンセプト」を持つことは、プロジェクトの成功における鍵となる。コンセプトを共有することで、同じ方向性に向かって進んでいくことができるからだ。

とはいえ、コンセプトの共有は簡単ではない。コンセプトを言葉で明確に定義しても、その解釈が人によって違っていたりして、コンセプトの意味するところがズレてしまうことがよく起きる。

サービス開発の現場で、エンジニア側とビジネス側の意思疎通がうまくいかず、開発がスムーズに進まないケースをよく耳にする。同じようなことが、作家と編集者の間でも起こり得る。そうした場合の多くは、コンセプトの定義が曖昧だったり、共有の方法に問題があるのではないだろうか。

「コンセプトをどう定義し、どう共有していくか?」

この問いについて長年考え続けてきたのだが、先日、コンセプトについて考える上で重要と思える気づきを得た。

ぼくは幾つかのベンチャー企業に投資をしており、その成長を支援している。先日、そのうちの一社の会議に参加した際、同じくその企業を支援している先輩経営者から聞いた話が、ぼくの心に深く響いた。

その先輩経営者は、ベンチャー企業の経営者にこう問いかけた。

「自分たちのプロダクトは、洗濯機なのか? 包丁なのか?」

洗濯機は汚れた服をキレイにする。道具として解決するペイン(Pain)が明確で、使い道も明確だ。だから、洗濯機のメーカーの人たちは、いかに素早く洗濯を完了させ、いかにキレイに洗濯を仕上げられるかに、力を注いでいく。売り方においても、そのポイントを重点的に伝えていく。

包丁の場合は、使い道が多用だ。料理の下準備として食材を切るために使用することもあれば、完成した料理を切り分けるために使うこともある。切り方も多様で、使う人の技術によって様々な使い道ができる。ある種、使う人次第で価値が全く変わってくる道具とも言える。

ペインを起点に、パッケージ化を洗練させていくのが洗濯機。様々なペインに対応できるよう、機能美を追求していくのが包丁。そう言い換えてもいいかもしれない。

両方ともプロダクトを良くさせていくことに変わりはないが、開発や売り方の方向性は全く異なる。

自分たちのプロダクトを洗濯機的なものだと捉えているメンバーと、包丁的なものだと捉えているメンバーが混在すると、チームの足並みが揃わなくなってしまう。だから、自分たちのプロダクトはどちらの方向性なのかを、しっかりとチーム内で擦り合わせたほうがいいのではないか。

このような話を先輩経営者から聞いて、まさに目から鱗が落ちる思いがした。

サービスやプロダクトのコンセプトについて考える際、いきなり言葉で定義しようとすることが多いように思う。でも、その前段階で、こうした方向性のすり合わせをすることで、認識のズレは随分と少なくなるだろう。

そして、方向性をすり合わせる概念として、「洗濯機なのか? 包丁なのか?」という問いかけは、すごくわかりやすいと感じた。

コルクでも様々なサービスやプロダクトを手掛けているが、こうした形式で議論したことはなかった。作家のエージェント事業は包丁的で、新人マンガ家向けのスクール事業は洗濯機的なものだと、ぼくは捉えているけど、みんなはどうだろうか。社内でしっかりと議論をしていきたいと感じた。


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『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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