なぜ作家エージェントが、今の時代に必要なのか
「なぜ作家エージェントが、今の時代に必要なのか?」
これは、コルクを創業した当初から繰り返し聞かれてきた質問だ。
現代は、多様なメディアが共存する時代だ。
SNSが発展する前は、作家はどこかのメディアに自分の作品を掲載しなければ、創作を続けることすら難しかった。しかし、SNSが普及し、ファンコミュニティから継続的な収入を得られる今では、メディアに依存しなくても活動を続けることが可能になった。
しかし、選択肢が多すぎるがゆえに、どのように創作活動を続けていくべきかを迷ってしまうことがある。認知を上げるためにメディアに出すのか、収入を得るためにメディアに出すのか。そのタイミングとバランスは、どうすればいいのかは、簡単にはわからない。
そこで、作家とビジョンを共有し、中長期的な目線で作家の活動を支えていく存在が必要になる。
メディアごとの特性を見極め、どのようにファンコミュニティを広げていくか。出版社や配信プラットフォームと、どのように協力するか。それらをトータルでプロデュースし、作家の可能性を最大限に引き出す。それが、コルクの編集者に求められる役割であり、作家エージェントの使命であると。
このように、ぼくが作家エージェントの必要性を語る時、「メディアの多様化」「選択肢の多様化」という視点を軸に話を進めることが多かった。
だが、この問いについて改めて考えた時に、それら以上に重要だと感じる視点に気づいた。
それは、「受発注の関係が逆転してきている」という視点だ。
これまでの時代、作家をはじめとするクリエイターたちは、基本的に受注側に位置していた。発注元となるのは、メディアを運営する企業や、広告などのコンテンツを必要とする企業だ。これらの依頼に応じることで、クリエイターの仕事は生まれていた。
雑誌には多くの愛読者が、テレビには多くの視聴者がいる。クリエイターは、自分の作品をメディアに掲載することで、そのメディアが保有するファン層に自分の存在を知ってもらう。言い換えれば、メディアを通じてファンを「お裾分け」してもらう仕組みが長らく続いていた。
しかし、SNSが普及した現在では、作品をSNSで継続的に発表し、自らファンを獲得できるようになった。さらに、ファンコミュニティを育てることで、メディアに左右されずに、自立して活動できるようになった。
一方で、イニシアティブをもって、自分の創作活動を豊かにしていくには、セルフプロデュースの力が欠かせない。
SNSでは、どんなコンテンツを発信するのが効果的か。ファンに喜んでもらうためには、どんなグッズを企画するべきか。ファンと交流するイベントは、どのような内容にすれば満足してもらえるか。自身の活動を紹介するWebサイトは、どんなデザインにするべきか。
仕事を「もらう」のではなく、自ら「作り出す」。
いま世間で活躍しているクリエイターたちを見ると、このセルフプロデュースの力が高い人たちばかりだ。
以前、とあるVTuberプロダクションの経営者と対談した際、「新人オーディションの選考では、どこを重視いるんですか?」と聞いたことがある。その際、「タレント自らが、事務所に『これをやってほしい』と発注をかけるような、自主性があるかどうか」と答えていたのが印象的だった。
とはいえ、やりたいことがいくらあっても、それを一人ですべてこなすのは難しい。中長期的なビジョンを見据えながら、やるべきことの優先順位を整理する必要もある。こうした課題をクリエイターとともに解決し、伴走する存在こそが作家エージェントだ。
発注権がクリエイター側にある時代において、クリエイターが叶えたいことを多岐にわたってサポートする。クリエイターからの多様なオファーに柔軟に対応するプロフェッショナルな集団であること。
さらに、クリエイター自身が叶えたいビジョンを整理するための「壁打ち相手」になることも重要な役割だ。
クリエイターのやりたいことを引き出し、方向性を見極めるための支援を行う。対話を通じて、クリエイターが自分のビジョンをより具体的に描けるようサポートするのも、作家エージェントの大切な仕事となる。
考えてみると、この「受発注の関係が逆転してきている」という流れは、コンテンツの世界だけでなく、ビジネスの世界でも起きている。
かつては会社から仕事を与えられる立場だった社員が、いまでは自分の叶えたいキャリアを実現するために会社を活用する立場へと変わりつつある。
この変化に伴い、多くの企業が人事制度を見直し、世の中のキャリアサポート系のサービスも変化している。そういった異業種の事例から、ぼくらが学ぶべきものも多いように感じる。
「なぜ作家エージェントが、今の時代に必要なのか?」
この問いに対して、今までとは異なる抽象度の高い視点を得たことで、自分たちが目指したい姿がより明確になった。
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コルク佐渡島の『好きのおすそわけ』
『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…
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