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人生を通じて、自分は何を「引き継ぎ」たいか?

去年あたりから、「受け継ぐ」「引き継ぐ」という言葉について、よく考えるようになった。

ぼくは、新人マンガ家に「好きのおすそ分け」としてマンガを描こうと、よく伝えている。

では、「好き」とは何かと考えると、自分より先に感動した誰かがいて、その人たちが好きを深堀りし、それを僕らは受け取って、何かを好きになる。楽しみ方へのアプローチを誰も作っていないものを好きになることはない。

音楽にしても、文学にしても、ゼロイチで創作しているのではない。自分が影響を受けたアーティストや作家には、彼ら彼女らに影響を与えた存在がいて、その繋がりはどこまでも続いていく。長い歴史のなかで、その姿形に変化はあれど、音楽や文学に感動した体験が多くの人に受け継がれて、現在に至っている。

昨年、『自分の「好き」が、見つからない時に立てる問い』というnoteにも書いたが、ぼくらは自分の力や対象の魅力で、何かを好きになると思いがちだ。だが、その好きは誰かの思いを受け継いでいる。その感覚を持つと、「おすそ分けしよう」という気持ちが自然と湧くのではないか。

そんなことを考えるようになってから、ぼく自身、自分は何を受け継いで、次の世代に何を引き継いでいきたいかを、深く考えるようになった。

また、こうした考えに行き着いた背景のひとつに、福岡に移住してから関わっている、糸島を拠点に活動する『雲孫財団』の存在もあると思う。

「雲孫(うんそん)」という言葉は、自分から数えて九代めの子孫を指している。曾孫(ひまご)や玄孫(やしゃご)の先にある、自分の親族について名付けられている、一番先の子孫を意味する言葉だ。この雲孫財団では、雲孫のためになる活動をすることをコンセプトにしている。

昨年、財団のメンバーたちと、同じようなコンセプトを掲げて活動をしている人たちに会いに行ったり、未来に残すべく建てられた施設を視察に行ったりしながら、どういうものを自分たちが残したいかを語らってきた。

この雲孫財団に関わる前は、200年も300年も先の子孫のために何をすべきかなんて考えなかった。雲孫財団のメンバーたちと活動をともにすることが、自分の思考に確実に影響を与えていると感じる。

「受け継ぐ」について考えていくと、受け継がれていくとは、とても奇跡的だと感じることがある。そして、あまりにも何も受け継がれてなくて、ひどく無常を感じる出来事があった。

大阪の堺を訪れた時のことだ。

安土桃山時代にイエズス教会の宣教師として日本にきたルイス・フロイスは、著書で堺を「東洋のベニス」と語り、マラッカの司令官宛に「堺は日本の最も富める湊にして、国内の金銀の大部分が集まるところなり」と報告したそうだ。

堺というと、日本史のなかで、産業の街としても、文化の街として、よく語られる。産業面では、戦国期より鉄砲生産が盛んに行われ、文化面では今井宗久や千利休などに代表される茶道が有名だろう。

また、堺は歴史が古く、面積として世界一の墓である仁徳天皇陵をはじめ、世界遺産に登録された百舌鳥古墳群がある。伝統文化に事欠かない堺では、
神社や仏閣が多く建てられ、その数は京都や奈良に並ぶほどだったそうだ。

先日、はじめて堺市に訪問する機会があり、せっかくだから観光をしようと早めに行った。しかし、観て回るところがどこにもない。新興の郊外の街であり、あまりにも平凡で、日本のどこにでもある景色だ。なぜ、歴史の面影がどこにもないのか。堺はそこまでたいしたことがなかったのだろうか?

その日の晩に、堺市の飲食店でご飯を食べていた時に、街に対する印象が乏しかったことを話していると、その飲食店の人が堺の歴史について話をしてくれた。

聞くと、第二次世界大戦の時代に、軍需工業都市となっていた堺市は幾度も空襲を受け、市のほとんどが焦土となったそうだ。堺市にあった神社や仏閣のほぼ全てが、その際に跡形もなく消失したらしい。もし、そうした出来事がなければ、京都や奈良に匹敵するような文化財のある街として、堺は多くの人が足を運ぶ場所になっていただろうと、その店の人は言っていた。

長い年月をかけて受け継がれてきたものも、戦争や大災害のような予想外の出来事によって、突然、失われることもある。歴史を振り返ると、残っているものより、そうやって失われていったもののほうが、ほとんどだろう。

そう考えると、今の自分たちが受け継いだと思っているものは、この100年程度のものばかりで、数百年単位で受け継いでいるものなどほとんどないのだ。もしかすると京都よりもすごかった街が、戦争で焼けてしまい、その事実すらほとんどの人に知られていない。

堺の街は、なんと諸行無常を感じさせるのだろう。その無常感に衝撃を受け、何度ももしも堺の街が焼けなかったら、どんな日本になったのだろうと妄想する。


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